かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『白い船』

 

 

1946年生まれの作家、ユン・フミョンが1995年に発表した本作は、同年李箱文学賞を受賞している作品だ。

韓国の小説文学が新しい技法、主題、言語、構造によってその地平がさらに広がり、叙情的で格調ある繊細な言語で小説世界を構築したと評価された”(訳者あとがきより引用)というこの作品は、語り手である作家が、ソ連崩壊後の中央アジア韓民族の同胞を訪ねる物語だ。

きっかけは、カザフスタンの首都にある韓国教育院を通じて、ソウルに住む作家の元に送られてきた文章……韓国語を知らない少年が祖父の故郷に想いをはせる「韓国語を学ぶ子ども」と題された1編の物語だった。

この物語(作中作)をきっかけに、作家は中央アジアへと旅立つのだ。

ウラジオストクを中心としたソ連の極東地方に移り住み苦労しながらもなんとか暮らしていた韓民族が1937年前後に中央アジア強制移住させられた経緯については、ちょうどテリー・マーチンの『アファーマティヴ・アクションの帝国』を足がかりにあれこれ派生読書をしていることもあってとても興味深かったし、さらにはソ連崩壊後の各地の各民族がおかれた状況についてもいろいろ考えさせられもした。

もっとも、この物語の一番印象的なのは、なんといっても冷たい水をたたえた湖と雪をかぶった天山山脈の美しさだ。
その描写は、見たことのない風景に憧れを抱くには十分で、いつか私も……と、思わず旅情をかき立てられた。