来訪から13年後、ある学者が記者の質問に答えて力説する。
“もっとも重要な発見は「来訪の事実」そのものだ”と。
“連中がどこからなんの目的でやってきて、どうしてあんな短期間しかとどまっていなかったかとか、なにを置いていったのかなどということよりも、この宇宙に存在するのは自分たちだけではないのだとはっきり知ったことの方が重要なのだ”と。
だが現実には、記者をはじめ大方の人々の関心を引いていたのは、来訪ゾーンで見つかった物が、人類の歴史をどう変えるのかということだった。
ストーカー(=獲物にこっそり忍び寄るものの意)と呼ばれる連中は、命がけでゾーンに入り込み、見つけられる物はなんでも手当たり次第持ちだしてくる向こう見ずな奴らだ。
物々しい警備の目をかいくぐって不法に得た獲物は、足元は見られはしても、それなりの金にはなった。
来訪者たちが置いていったそれらは、本来何に使われる物なのかわからないものの、あれこれと研究され、新兵器の開発をはじめ様々な形で人類文明に大きな影響を与えるようになっていたのだ。
レドリック・シュハルト、通称赤毛(レッド)は、自分で自分の食い扶持を稼ぐ必要があった孤児で、少年の頃からストーカーとしてならしていた。
国際地球外文化研究所ハーモント支所の実験助手という仕事につけたのは、その腕を見込まれてのことだろう。
なにしろゾーンには、「赤い綿毛」や「悪魔のキャベツ」「肉挽き器」などと名付けられた危険が山ほどあるのだ。
熟練の案内人なしに入っていくことなど自殺行為に他ならない。
もっとも、案内人がいたとしても、命の保証は全く無かったが……。
23歳のレッドは研究者キリールのたっての要望でゾーンに案内することになる。
今回は正規の手続きをとって向かったので、許可証と特殊保護服を身につけていたが、それでも危険なことには変わりは無かった。
ましてや、キリールの本当の目的が、許可事項を逸脱しているともなれば…。
28歳のレドリック・シュハルトは妻子持ちだが職業不定。
異形の娘“モンキー”。
物を運び出すストーカーたちの身体は、どうやらゾーンから何らかの影響をうけているようで、生まれてきた子どもにはっきりとした異変が現れていた。
そのことがレッドを苦しめてもいる。
だがしかし、どうしたって金が必要でストーカー稼業に舞い戻り、文字通り命がけで獲物をとりにいく。
レドリック・シュハルト、31歳。
刑期を勤め上げて、妻子の元に帰り、まっとうな生活をはじめるかと思いきや、そうは問屋がおろさない。
どんな願いもかなえてくれるという“黄金の玉”を求めて、再びゾーンに向かうのだ。
結局のところ、なにがやってきて、なにを置いていって、それらの置き土産が後々どんな影響をもたらすものなのか、詳しい説明はなにもなく、ただ、本の中の人々同様、読者も、断片的に得た知識からあれこれ想像するしかない。
あるいはそこが気に入らないと思う読者もいるかもしれないが、サイエンスよりもファンタジー寄りのその訳のわからなさが、私には面白かった。
そしてまた一癖も二癖もあるストーカー達の中でも、とりわけ異彩を放つレドリック・シュハルトの魅力ときたら!
ワルのくせに情に厚いこのタフガイ。いいわー!かっこいいわー!
原題はПикник на обочине。
本国ソ連ではなかなか日の目を見なかったようだが、1977年には英訳版が Roadside Picnic の題名で出版され、1979年には名匠アンドレイ・タルコフスキーが『ストーカー』のタイトルで映画化した。
もっともタルコフスキーの映画は、この小説の最終章のみをとりあげて、さらには多くの改変がなされているので、原作とは全く別物らしい。
映画のクレジットに脚本担当として名を連ねている作者アベエスィ(Абээ́сы)たち自身が、映画に残ったのは「ストーカー」と「ゾーン」という二つの言葉と、願望が叶えられる場所だけだったといっていたというのだから。
ちなみにそんなアベエスィが映画『ストーカー』のために、何本も書き改めた初期の頃のシナリオの一つが『願望機』というタイトルで翻訳刊行されているので、近々そちらもご紹介したいと思っている。