かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『父さんのゾウ』

 

かわいらしい表紙に惹かれて手にした本は、クイーンズランド文学賞児童書部門の大賞を受賞し、各国で翻訳されているという作品だ。
パラパラとページをめくると、表紙と同じやさしいタッチのイラストも沢山あるが、140ページほどとなかなか読みでのある物語のよう。

とはいえ、裏表紙には「小学中級から」という表示もあるし、子ども向けの読み物であることは確かだ…と、誰だって思うでしょう?

ところが、ところがだ。
すっかり油断して、軽い気持ちで読み始めると、これがなんとも……。

書き出しはこんな感じだ。

 オリーブが台所へ入っていくと、ゾウがいた。小さな木のテーブルの前で、父さんのとなりにすわっている。父さんもゾウも、同じようにくたびれた顔でまどの外をながめている。まるではじめて見る絵をながめているみたいだ。ゾウのつくる影のせいで台所はうすぐらい。ゾウは小さな黒いぼうしをかぶっている。
「父さん、ただいま」オリーブが言った。



オリーブは、父さんとゾウと、おじいちゃんと犬のフレディとくらしている。

オリーブは毎日お弁当を作ってくれて、学校に迎えに来てくれ、あちこち連れて行ってくれたり、いろいろなことを教えてくれるおじいちゃんが大好きだ。

もちろん、父さんのことも大好きだけれど、父さんのまわりにはいつもはい色のゾウがうろうろしていて、オリーブが父さんに近づくのをじゃましているのだ。

なんとかして、あのゾウをおいはらいたい。
オリーブはおもいきって、ともだちのアーサーに相談するのだが……。


本当にあなどれない。あなどれないどころか、めちゃくちゃすごい本だった。
読んでいるうちに、慌ててティッシュの箱を引き寄せなくてはならなかっただけでなく、途中で一旦本を閉じて、深呼吸する必要すらあった。

いずれにしても児童文学だし、最後はめでたしめでたしでおわるはずと思っていたら、これがまた!?

とはいえ今は「とにかくこれ、読んでみて!」としか、いいようがない。

そして読んだあなたとしみじみと語り合いたい。
そんな作品だ。

また1冊、ずっと大切にしたい本に出会えた。