かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『ラスト・チェリー・ブロッサム わたしのヒロシマ』

 

机の下にはいりなさい。早く!
空襲警報のサイレンが鳴り響き、先生が生徒たちに叫ぶ。
物語はそんなシーンから始まる。

主な舞台は、昭和十九年から二十年の広島。
幼い頃に母を亡くしたユリコは、新聞社を経営する父の愛情を一身に受け、戦時中ながらも、裕福な家庭で幸せな生活を送っていた。

同居するおばと幼いいとこには閉口することが多かったが、なんでも打ち明けることができる近所に住む一つ年上の親友マチコの存在も大きかった。

物語は、父の再婚、出生の秘密など、十代前半の多感な時期の少女の心情を、彼女が書く作文をうまく生かす形で語り上げていく。

だが、戦況は日に日に悪化し、親友のマチコが密かに思いを寄せていた青年も出征、マチコも勤労動員で工場に働きに行くようになる。

そして昭和20年8月6日、広島に落とされた1発の原子爆弾でユリコは多くのものを失うことになったのだった。


日系アメリカ人の作者が、被爆者である母の体験をもとに英語で執筆したフィクション。

作者自身、母の名代として、いかなる理由があろうと、どの国に対しても核兵器を使用してはならないことを将来の有権者たちにわかってもらいたいと、被爆体験を子どもたちに語る活動をしているとのこと。

そういう活動を補完する本を、という周囲の要請もあって執筆された物語は、アメリカの多くの学校で読まれ、国連の軍縮活動における推薦図書にも選定されているのだという。

アメリカで描かれたということもあるのだろう、ところどころに少しばかり違和感を感じる場面があるにはあるが、そういうことは脇に置いて、アメリカでこういう物語が書かれていること、若い世代に読まれていることを心強く思うのだった。