かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『終わりの始まり』

 

桜のつぼみがほころびはじめ、やがて見頃を迎え、そして散っていく、そんな短い季節の物語だ。

末期癌でもってあと2か月と言われている母の看病をするヨンム。
幼い頃、父の死を目の当たりにしたあの日以来、母と2人だけで生きてきた彼は、人と上手く交わることができない。
そんな寡黙な男に惹かれたはずの妻ヨジンは、満たされぬ思いを持て余し、若い男性との情事に走り、離婚を切り出す。

あなたといると寂しくて、
あなたといると息が詰まるの

かつて付き合った女たちに言われた言葉がヨンムの頭にこだまする。
彼女たちを愛していなかったというわけではなかった。
けれども付き合っていくうちに相手は次第に明るさと笑顔を無くし、影をまとうようになっていった。
そんなことが重なってますます心を閉ざすようになっていたヨンムに、半ば強引に結婚を迫ったヨジン。
彼女だけは、満足こそしていなくても、幸せでいてくれていると思っていたのに。


ヨンムの下で働くソジョンは、大学卒業後もバイトを転々としている。
長患いの末、亡くなった父、心身共に疲れ切って病気がちになった母、高校を放り出して家を飛び出した弟。
恋人のジンスには、じっくり腰を据えて就職活動に励んだ方がいいといわれてたが、生活費を稼ぎ、奨学金を返済しなければならないソジョンにはその余裕はない。
貧困の連鎖から逃れられず、社会に出たことで学生時代から付き合ってきた恋人との“格差”に悩んでいたのだった。


主な登場人物はこの三人で、それぞれが交錯しながらも三人三様の春が描かれている。

春は別れの季節だなんて、言い出したのは誰だったのか。

桜の花が咲き始める。
それは確かに終わりの始まりだったかもしれない。
だが花が散ったその後に、始まるものも確かにある。