かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『わたしのペンは鳥の翼』

 

子どもたちは皆、それぞれの家族とともに国外にいて、彼女は一人で暮らしている。
誰かが負傷したり、殺されたりする事件が起きても、犠牲者の中に家族がいるかもしれないと心配する必要はない。
連絡はスカイプで取ることもできる。
けれども、もし自分が死んだとき、気づいてくれる人はいるだろうか……。
巻頭作「話し相手」を読んだとき、もちろんこれは、常に危険とのなりあわせの地で一人暮らしをする高齢の女性の話ではあるのだけれど、その孤独や寂しさは、万国共通であるような気がして親近感を覚えた。


続く「八番目の娘」は、子宝に恵まれながらも、男の子を産むことができなかった女性の話で、跡継ぎ問題に悩まされてきた多くの女たちの記憶を呼び起こす。


金持ちだが文字が読めず、コンピューターの使い方も知らなければ英語も話せない経営者の男の元で、翻訳の仕事に従事する女たち。
彼女たちの才能を安く買いたたくだけでなく、その身体にまで手を伸ばそうとする経営者に抗う女たち。
「共通言語」に登場する女性たちに思わず、エールを送りたくなる。


異なる社会、異なる環境にあっても、こんな風に共感し、連帯することができるのだと確信する一方で、とりまく環境の違いに言葉を失うこともある。


たとえば「防壁の痕跡」はこんな風にはじまる。

 ラナがふたつのコンクリート防壁の陰にいたとき爆発が起きた。その爆発でなにもかもが空中に吹っ飛んだ。舞い上がったラナの身体の半分は、ふたつの防壁のあいだに落下した。ふたつ並んだ防壁のあいだは一メートルもなかった。そこに彼女は、少なくとも彼女の身体の半分は、戻ってきた。もう半分は、空中から戻ってくることはなかった。


けれどもこれは間違いなく、ラナの物語なのだ。


本書は、紛争地域の作家育成プロジェクト〈UNTOLD〉による企画編集で、3年をかけてイギリスとアフガニスタンでやりとりをしながら、「小説を描きたい」という女性たちを広く募り、2022年2月に一冊の本として英国で刊行された18人のアフガニスタンの女性作家たちによる短編集の翻訳版だ。

全部で23篇。
短い物語の中に、家父長制、女性嫌悪、貧困、テロ、戦争、死など様々なテーマが描きだされている。

時々目を閉じる。

ふと、以前読んだ絵本のタイトルを思い出す。
『《世界》がここを忘れても』

 


いいえ、私は、私たちは忘れない。

ふーと息をはく。
呼吸を整えて、本の中へと戻っていく。

彼の地で暮らす人々と、物語を紡いだ作家たちにも想いをはせながら。