かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『製本屋と詩人』

 

内容も装丁もそそられることの多い出版社「共和国」が、今度はチェコの詩人の本を出した。

しかもそれが現代詩人の作品ではなく、没後100年になる20世紀初頭の革命詩人だと知ったとき、そんな物好きな本を好むの読者はそう多くはないだろうという気持ちと、これはなんとしても読まなくてはと思う気持ちが同時に押し寄せてきて当惑した。

そんなわけで本書は、20世紀初頭のチェコを代表する革命詩人、イジー・ヴォルケル(1900-24)が短い生涯に残した数多くの童話と詩から精選する、日本初の作品集だ。

実をいうとイジー・ヴァルケルという名には覚えがあった。
といってもそれは、私のお気に入りの作家カレル・チャペックが、そのエッセイの中で、批判的に取り上げていたからだった。
カレル・チャペックはイジー・ヴァルケルと政治的立場を異にしていたからこその批判でもあったのだが、わざわざ名前を挙げて批判せねばならないほど、重要視していたようにも思われて、気になっていたのだった。

そんなイジー・ヴァルケルの作品に初めて触れたのは、数年前 『ポケットのなかの東欧文学-ルネッサンスから現代までを読んだ時。

この分厚い本の中にたった一篇、詩が収録されていたのだった。

そんなこんなでなかなか手が届かなかった詩人の作品が丸々1冊分読めるというのだから、いそいそと手を伸ばさないでいられるはずもない。
というわけで、読んでみた。

収録されているのは、物語が5篇、詩が24篇、評論が1篇に、読み応えのある訳者あとがき。
とりわけ私のお気に入りは巻頭表題作『製本屋と詩人』。

こんなお話だ。
  
   *****

裕福な人たちが住む地域で暮らす詩人が、お金持ちの美しいお嬢様を喜ばせ、あわよくば花婿の座を射止めようと、精魂込めて1冊の本を書き上げました。

『あらゆる喜びからあふれるさらなる喜び』

世界でもっとも美しく、明るく楽しい詩のはずでした。

その製本を、腕の良さに定評のある貧しい地区で暮らす製本屋に依頼するのです。
製本屋の妻は重い病に苦しんでいて、製本屋は妻のために報酬が期待できるこの仕事を引き受け、とても美しい本を仕上げました。

そのできばえに満足した詩人は、祝いの日に人々の前で自分の作品を朗々と読み上げるのですが…。

   *****


本というのは、書く人だけでなく、製本する人、読む人と、様々な人の手を介してはじめて完成するのだとあらためて感じ入る。

「素敵な本をありがとう。」と、あの人この人にお礼がいいたくなってきた。

詩はもちろんのこと、物語の方も、黙読だけでなく、思い切って声に出して読んでみるのもお勧めだ。