かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『花びらとその他の不穏な物語』

 

2021年夏の刊行以来、多くの読者を引きつけてやまない 『赤い魚の夫婦』に続く、現代メキシコを代表する女性作家グアダルーペ・ネッテル(Guadalupe Nettel)の邦訳短編集第2弾!

「もっとネッテル!」「待ってるネッテル!」と、ことある毎に叫び続けてはいたけれど、まさかこんなに早く、新刊を手にすることができるとは!
訳者や出版社はもちろん、私と同じようにすっかりネッテルに魅せられて、「もっと読みたい」と声を上げてきた多くの日本語版読者の皆さんにも感謝の気持ちでいっぱいだ。

収録作品は6篇。

まぶたの整形手術の術前・術後の写真撮影を仕事とするカメラマンの男が恋したのは、ある女性の手術前のまぶただった!(「眼瞼下垂」
夜、寝る前に一話だけ……と、読み始めたのが運の尽き!?
案の定、思いっきりまぶたが腫れる夢を見た。

ブラインドの隙間から、夜な夜な向かいの集合住宅の一室をのぞき見ては、その部屋に住む男のあれこれを妄想する女性。(「ブラインド越しに」

週に一度、家の近くの植物園に散歩に行く男は当初、植物には目もくれずただただ歩くだけだったのだが、やがて……。
日本を舞台にしたこの「盆栽」を読みはじめて、最初に思い浮かべたのはハン・ガンの 『私の女の実』だった。
自分を植物に例えるとしたら、あるいはこの人を…と、読みながら傍らを盗み見る。

“ほんものの孤独”を探し求める少女が、ひと夏を過ごすことになった離島で出会ったのは……。(「桟橋の向こう側」

あの店、この店の女性トイレに潜り込んでは「痕跡」を発見し、大真面目に分析しては、その主を探し求める男。(「花びら」
これを読んだらあなたもきっと、トイレを出る前に何度も何度も後ろを振り向いてしまうはず。

髪の毛を抜く癖がやめられずに、身も心も暮らしも人間関係も生活も壊れてしまったという、病院で療養中の女性の手記。(「ベゾアール石」


あの人もこの人も、他人には言えない習慣や、激しい思い込み、奇妙な癖がある。
どの作品も濃厚で、じわじわとせまってくる不穏ななにかが、身体にまとわりついてくるような独特の雰囲気を持っている。

読んでいるとぞわぞわしてくるこの“不穏”がネッテルの大きな魅力だと思うのだが、『赤い魚の夫婦』の4年前に書かれた作品ということもあるのか、『赤い魚の夫婦』よりはあたりは柔らか。
特に日本を舞台にした「盆栽」などは、海外文学を読みつけない方にも安心してお勧めできる。
もしかするとあなたもこのオチには、思わず「おおっ!」と声をあげるかもしれない。

『赤い…』でネッテルに魅せられたあなたにお勧めするのはもちろんのこと、“『赤い…』はちょっと強烈すぎて…”とおっしゃるあなたにも、本書でリベンジしてみるのもいいのでは…と声を掛けたくなる、そんな1冊だ。