ポーランドの詩人ヴィスワヴァ・シンボルスカ(1923~2012)が2002年にまとめた詩集の全訳。
1996年にノーベル文学賞を受賞した後、初めて刊行された詩集でもある。
翻訳は『終わりと始まり』につづき、沼野充義氏、版元も未知谷と変わらないが、収録方法は大きく変わっていて、23篇の詩一つ一つに訳者の解題が記されている。
この編集方針の善し悪しについては評価が分かれるところだと思うが、詩人の心境や言葉に込めた想いとは別に、詩を詩として、うたわれたその言葉のみで読み手が読み手の心情にあわせて受け取るという詩を読む楽しみが削がれるような気がしてしまう。
残念ながら私は翻訳を介してしか、ポーランド語で書かれた詩を味わうことができないが、それでもやはり、私は私なりにまずは詩そのものと向かい合いたいと思うのだ。
それで、私はこの詩集を、最初に詩の部分だけを黙読し、2度目は気に入った詩を音読し、3度目に訳者の解題を併せて読む…という形で味わうことにした。
確かに解題を読めば、翻訳に当たって留意した点や、意訳した部分の紹介だけでなく、詩人が嘆く喪失がなにに起因するものかといった、詩がよまれた背景がよく理解できもする。
そういうメリットを認めつつも、私にはこの読み方が合っていたと思っている。
すべて、というのは--
厚かましく、うぬぼれで膨れ上がった言葉だ。
書くときは引用符でくくってやらなければ。
何ひとつ見逃さず
集めて抱え込み、取り込んで持っているふりをしている。
ところが実際には
暴風の切れ端にすぎない。
(「すべて」Wszystko)
この詩集の最後に収録された詩は、本のカヴァーにも使われている「とてもふしぎな三つのことば」(trzy slowa najdziwniejsze)と共に、忘れがたい作品だ。