かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『悪魔の涎・追い求める男 他八篇―コルタサル短篇集』

 

数年越しの積読本を読んだ。
長く積んでいる本の中には、積んだ理由さえはっきりしなくなっているものも多いのだが、この本の場合ははっきり覚えている。
それは読友さんのレビューだった。
なんだかとても変そうで、それでいて豊穣にいたることを約束されているようで、ぜひとも読んでみなくてはと思ったものの、手元にあることに満足して積んだままだったのは、同じコルタサルのこちらは長編『石蹴り遊び』と同様だ。

今回、この本を積読棚引っ張り出して読むことになったのは、津村記久子さんの 『やりなおし世界文学』のおかげだった。
この本には10篇の短篇が収録されているのだが、津村さん曰く最初の「続いている公園」のそっけない短さと不条理な結末を楽しめる人は、引き続き読んだ方がよいと思う。とのことだったので、試しに読んでみたのだ。たった2頁しかないこの巻頭作を。

読んだらガツン!ときた。
それもうそでしょう!というぐらい思いっきりガツンと。

そうなったらもう、読むしかないでしょう。
というわけで読んでみたのだが、これがねえ。
全くもって“一筋縄”ではいかない曲者ぞろいなのだ。

面白いか面白くないかと聞かれれば、どれもとても面白いのだが、どういう話だったのかと聞かれても上手く説明できる自信は無いし、理解できたのかと問われたら返答に困る。

最後まで読み終えて、訳者解説を読んだら、(え?そういうことだったの?)と思ったりもしたから、作者の意図を読めていない部分もあるのだろう。

それでもまあ、面白かったのだから、今のところはそれで良しとしよう。そうしよう。

収録されている10篇のうち、一番のお気に入りは「占領された屋敷」
40代にさしかかった兄と妹は共に独身で、曾祖父母や祖父母、両親や自分たちの幼い頃の思い出が詰まった古くて広い屋敷に二人きりで暮らしている。
毎日午前中は二人がかりで家の掃除をするというぐらいだから相当広い屋敷らしい。
ところがある夜、奥の方の部屋から物音が聞こえてきた。
手遅れになる前にと、兄は廊下のドアに鍵を掛け、かんぬきを下ろす。
以来二人は、こちら側で暮らすしかなくなったのだが……。
この話のすごいって、この占領者の正体が……!?(以下、ネタバレを避けて省略)

他にも薬物依存に陥っているサックス奏者を彼の伝記を執筆した作家の目線で描いた「追い求める男」や、一向に解消されない渋滞に巻き込まれた人と車を描いた「南部高速道路」など、日常の延長上にありそうな話なのに、数行読み進めただけで、気がつけばどこか別の場所に連れ去られてしまっていた!と感じるような話が繰り出され、とてもいっきには読めなかった。
薄い本なのに読み終えるまでかなりの時間を要し、時間を掛けてもレビューらしいレビューはちっとも書けそうにないが、とにもかくにも面白かった!ということは書き残しておきたい。

これを読み終えたからには、次はいよいよ、石蹴りに……!?

 

石蹴り遊び(水声社