かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『ミダック横町』

 

時は第二次世界大戦がようやく終わろうとしている時期から終戦後の数ヶ月。
主な舞台はエジプトのカイロに実際にあるという袋小路、ミダック横町。

横町とその住人を蔑む、気性が荒く野心家の美しい娘ハミーダ
横町とはミーだをこよなく愛す、穏やかで人当たりのよい理髪師の若者アッパース
人々が集う老舗喫茶店の店主キルシャ氏
キルシャ氏の息子で、英軍基地で働くフセイン・キルシャ
結婚仲介業を営むハミーダの養母
安価な治療費で人々に頼られている無資格の歯科医ドクター・ブゥシー
アッパースの親友で砂糖菓子屋の巨漢のカミルおじさん
物乞いたちの依頼で人工的に不具を作り出すことを生業とするザイタ

カイロの下町で暮らす個性豊かな人々の日々の暮らしを描きだすこの物語は、
1988年にアラビア語圏初のノーベル文学賞を受賞した
ナギーブ・マフフーズの長編小説だ。

思わずニヤッとしてしまうほどコミカルで、
そのくせとても切なくて。

それなりのボリュームはあるが、
毎日少しずつ横町を覗いてみるぐらいの気持ちで
ゆったりかまえて読みすすめた。

誰かにとってとても大切なことであっても
他の誰かにとってはいっときの噂話のネタにすぎず、
悔やんでも悔やみきれないこともあれば
すぐに忘れ去られてしまうこともある。

大きな哀しみに打ちひしがれていても
嘆きのあまり死んでしまうこともできずに、
哀しみを抱えたままなおも続いていく人生もある。

永遠を誓う愛もあれば
立ち去りがたい町もあるが
どんなことにも終わりがある。

物語はもちろん
戦争にも愛にも人生にも……

そう考えると寂しくもあるが
時にはそのことが慰めにもなる。