かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『父から娘への7つのおとぎ話』

 

建築事務所で非正規事務職員として働くレベッカは、雇用主から正規雇用契約を打診されていたが、なかなか決心をつけられずにいた。

そんな彼女の前に<サイド・スクープ>の記者を名乗る男、エリスが現れる。
彼は90年代のスターを取り上げる回顧記事の取材のために、レベッカ接触してきたのだった。
エリスが探しているいわゆる“あの人は、今”的なその記事でいうところの“あの人”とは、かつて一世を風靡したテレビ番組『密航者』の“密航者”役レオ・サンプソン、レベッカの父親だった。

幼い頃に父と別れて以来、母一人の手で大事に育てられたレベッカにとって、父親の話題は長年タブーで、その記憶すら封印されているといってよかったのだが、エリスとの接触によって、覚えていないと思っていた記憶の断片が浮かび上がってくると同時に、父親のことを知りたいという欲求を抑えることが出来なくなっていくのだった。

そんな彼女に母方の祖母は、7つのおとぎ話が収められた一冊の本を手渡す。
それは父が幼い娘のために書いたと思われる、少々変わった物語たちだった。

子どもの時ならいざしらず、今さらこんなものを読んだところで…と思いつつも、父親が自分のために書いてくれたのだというそのことだけでも、慰められる気がするレベッカだったが、エリスとともに関係者に当たっていくうちに、次第に父の失踪とおとぎ話の関連性に目を向けるようになっていくのだった。

スコットランドの書店で働きながら執筆をしている作家による小説で、幼い自分を置いて家を出て行ったきり20年も会っていない父親を、彼が残していったおとぎ話の本を手がかりに探そうという娘の物語だと聞き知っていた。
手がかりが「おとぎ話」であるということから、ファンタジー風味のソフトな味わいを予想していたのだが、いざ読み始めてみると、意外なほどビターで大人の味がした。

それでも後味は悪くなく、読み終えたあと、お腹の辺りが温かくなっていた。