かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『しあわせの理由』

 

SFには疎い私だが、グレッグ・イーガンといえば、ハードSF作家というぐらいの知識はあって、きっと難解なんだろうと遠巻きにしてきたのだけれど、早川書房創立80周年読書会の対象本でもある本書は、9篇の作品を収録した日本版オリジナル短篇集で、比較的読みやすい作品が揃っているともきいたので、試しにKindleサンプルを読んでみた。

読んでみたら驚くべきことに、サンプルなのに、巻頭作「適切な愛」が丸々1作読めてしまって、しかもこれがめちゃくちゃ面白い。

こんな話だ。

事故で瀕死の重傷を負った夫を助けるには、クローンに脳を移植するしかない。
しかし夫の身体のクローンを作るのに2年かかるという。
夫妻が掛けていた保険では、もっとも安価な延命措置の費用しか適用されず、この場合、一番コストが安いのは2年間、夫の脳を妻の子宮で保管するという方法だった。
妻に残された選択肢は少なくて……。
もしも事故にあったのが妻の側だったなら…等々の突っ込みもばっちりで、サンプルを読み終えると同時に、思わずポチッと購入してしまった。

“時空間距離における量子論的不確定性”とか、“核磁気共鳴スペクトル”とか、正直読んでもよく理解できない“SF部分”は結構あるのだが、どの作品も思っていたよりもずっと読みやすく、サイエンス的な部分よりも、社会矛盾をつき人々の葛藤を描いた場面が印象に残る作品群だった。

とりわけお気に入りは「適切な愛」と新薬の二重盲検試験を扱った「血を分けた姉妹」。
SFに疎い私なのであるいはこれはいわゆる“先取りの剽窃”というやつかもしれないが、ありがちな設定という気もした「移相夢」もなかなかよかった。


<収録作品>
「適切な愛」Appropriate Love (1991)
「闇の中へ」Into Darkness (1992)
「愛撫」The Caress (1990)
「道徳的ウイルス学者」The Moral Virologist (1990)
「移相夢」Transition Dreams (1993)
チェルノブイリの聖母」Our Lady of Chernobyl (1994)
「ボーダー・ガード」Border Guards (1999)
「血をわけた姉妹」Blood Sisters (1991)
「しあわせの理由」Reasons to be Cheerful (1997)