フランス文学史上初の心理小説と名高い作品ですが実は初読みです。
物語の舞台は時はアンリ2世の治世下、16世紀のフランス。
恋敵を押さえ込み、
父親を早くに亡くした女相続人として
母に厳しくしつけられた美しい名家の娘と結婚したクレーヴ公は、
思いこがれた女性を妻にしたことを喜びながらも、
彼女が自分が想うようには自分のことを想ってはいないことを
つらいとも思っていました。
それでも妻を慈しみ、
妻も夫の庇護のもと穏やかな日々が続くはずでした。
ところがある日、奥方は運命の人と出逢ってしまったのです。
お相手は当代きっての貴公子で、
エリザベス女王との結婚も囁かれるヌムール公。
二人は互いにひと目で恋に落ちたのでした。
募る想いと、あの手この手のヌムール公のアプローチ、
ついに堪えきれなくなった奥方は
その熱い想いをヌムール公ではなく、
自分の夫に告白してしまうのでした。
歴史に名高い実在の人物を多く配した物語の中で、
皇太子妃メアリー・スチュアートのお気に入りというポジションにある
クレーヴの奥方は、
美しいだけでなく聡明な女性です。
十代半ばで恋を知らぬまま結婚した彼女が、
シャルトル嬢からクレーヴの奥方へとその立場は変わってもなお、
一度も、誰からも、名前で呼ばれることがないことに心が痛みます。永遠の愛を誓っても、人は本当に一生心変わりせずにいられるものでしょうか。
恋に身を焦がしながらも、
その想いの行く末を冷静に分析してしまう彼女の賢さが
愛おしく思えてきもします。
濃厚なラブシーンなどは一切ありませんが、
とても切ない物語でした。
とはいえ、その切なさは、
読む前に想像していたものとは
少し違っていましたが……。