かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『住所,不定』

 

主人公はもうすぐ13歳になる少年フィーリックス。
彼はママと呼ばれたくない母親アストリッドと二人でバンクーバーで暮らしている。
バンクーバーのどのあたりか…、○×の近くとか、誰それの家のそば…などと説明するのは難しい。
なぜって、寝る場所はその日によって違うから。
二人が暮らしているのはキャンピングカーの中で、公園の駐車場や、人気が無くなった夜の工事現場など、その日によって落ち着き先は変わるというわけ。
スマホの充電ができるコンセントがあれば助かるし、近くにトイレがある方がいいに決まっているが、そうそうラッキーなことばかりは続かない。

もちろんこれは一時的なこと。
ずっとこんな暮らしをしていくつもりはなかった。
アストリッドの仕事が見つかるまで、どこか手頃な家賃のアパートが借りられるまで…。
けれどもそんな生活が、1週間、2週間、ひと月、ふた月と続くことになり、住まいどころか、食べるものにも事欠く始末。
そのうえ、この窮地を脱するためにとアストリッドがつぎつぎ繰り出す「工夫」もまた、フィーリックスの心を追い詰めていくのだった。

フィーリックスだって、福祉の手をかりることを考えなかったわけじゃない。
けれども、自身の子ども時代の経験から、「福祉」が乗り出してきたら最後、親子は離ればなれにされてしまい悲惨な結果になるだけだから、自分たちのこの生活は誰にも気づかれてはいけないのだとアストリッドはいいはった。
そのため、親しい友人にも、あれこれ気に掛けてくれる教師にも、周囲の大人達にも打ち明けたり、助けを求めることができなかったのだ。

そんなときTVの人気クイズ番組がジュニア大会の出場者を募集していることを知る。
雑学オタクの才能を発揮して、賞金を手にすることができたなら、この窮状を脱することができる!
わらにもすがる思いでそう信じたフィーリックスは……。


原題は No Fixed Address。
序盤は、自分は息子を護っているつもりで、そのじつ息子に甘えているとしか思えない母親アストリッドに辟易し、フィーリックス少年の姿に、厳しい家庭環境におかれた年若い知り合いの子のあれこれを重ね合わせて、心配となにもしてあげられないもどかしさとでいっぱいいっぱいになってしまって、なかなかページが進まなかったのだが、フィーリックスに友人が出来、母親を客観的に見ることができるようになっていく中盤以降は、ページをめくる手が止まらなくなり、気がつけば、涙を流して読みふけっていた。


そうそう、前作 『ぼくだけのぶちまけ日記』の読者には、ひとまわり大きくなったヘンリーの姿をちらっと目にすることができるという特典付き。
いつかまた別の物語で、フィーリックス少年のその後も垣間見られたらいいなあ。