フェミニズムの視点に立ち、フェミニズム/ジェンダー批評を取り入れて作品を読み直し、発掘をはかり、文学史の書き換えをめざす「新・フェミニズム批評の会」によって編纂された文学論集。
これまで“大正時代に見るべき「女流文学」はない”と書かれた文学史もあるがそれは間違いで、“大正時代は女性の表現者を多数生みだし、育んだ時代でもあった”という立場から、取り上げられる面々の個性豊かなこと。
伊藤野枝からの派生で、拾い読みするつもりで手を伸ばした本だったが、日蔭茶屋事件で実刑判決をうけた神近市子の章(神近市子『引かれものの唄』-汚名を逆手に取る戦略/小林裕子著)には驚いた。
自身の犯行が単に大杉栄と野枝との痴情のもつれから生じた嫉妬と、金を貢がされたためだという世間の通俗的認識を跳ね返し、自らの尊厳を回復すべく、彼女が取った行動とは……。
この章だけでも読んで良かった。
他にも
“生田花代の転換--貞操論争から『ビアトリス』まで/岡西愛濃著”
“宮本百合子『伸子』の素子--レズビアニにズムの<変態>カテゴリー化に抗して/岩淵宏子著”
“宮本百合子の「セクシュアリティ」と「文学」--『伸子』時代の湯浅芳子との往復書簡を読む/北田幸恵著”
“野上弥生子の恋愛・結婚小説と、中勘助との恋--『青鞜』の裏の世界/高良留美子著”
“一九一〇年代の羅蕙錫(ナ・ヘソク)の評論類と日本の言説--「欲望」と「欲心」をめぐる試論/江種満子著”
など、
それは知らなかった!なるほどそういう読み方もあるのか!と刺激がいっぱい。
ここからまた、いろんな方向に派生していきそうな、新鮮な驚きに満ちた大正文学批評だった。