かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『少女地獄』

 

収録作品は、表題作の他『童貞』『けむりを吐かぬ煙突』『女坑主』。

なんといっても秀逸なのは、三つの書簡体小説からなる表題作『少女地獄』。

とりわけ一つ目の「何んでも無い」の面白さは群を抜いている。

虚言癖の少女…といっても自称19歳の姫草ユリ子は、数年前からずっと19歳のままだったようなので、“少女”と言っていいのかどうかは迷うところではあるのだけれど…でもやっぱり、自分をよく見せるためにつかなくてもいい嘘をつき、その嘘を守るために更に嘘を重ねていくその心理は、昔少女には多少なりとも思い当たる節があって…。
患者からも慕われる腕の良い看護婦である一方で、当たり前の顔をしてごくごく自然に嘘をつく姫草ユリ子のその嘘は、要らぬトラブルを引き起こしはするがだがしかし、そのことにどれほど深い罪があったのか……。

などと考えながら二つ目の「殺人リレー」を読みすすめて“おやっ?”と思う。

命懸けの恋に落ちた少女の話で、手紙の書き手はバスガール。
宛先はバスガールになることを夢見る友達。
「女車掌になんか成っちゃ駄目よ」と綴るその理由はなんと!?

三つめの「火星の女」で手紙を綴るのは、背が高く、不器量で、男子顔負けの身体能力をもつことから“火星の女”などと陰口をたたかれるスポーツ記者の卵の陸上選手で、文字通り“復讐に身を焦がす”話だ。

それぞれ主役は“モダンガール”で、告白あるいは告発の“手紙”と“自殺”という共通項もある。

時代設定が昭和八年(1933年)というのは、女子学生が友人の投身自殺を見届けたという「三原山自殺事件」と、この事件のセンセーショナルな報道をきっかけに、自殺者が急増したという年であったことと無関係ではないだろう。

「少女」たちを「地獄」へ追いやる社会と時代の背景を思って振り返るとき、虚言癖の少女姫草ユリ子をめぐる一連の出来事の顛末を綴ったのは、ユリ子本人ではなく、彼女の雇用主だった医師であったことが気になり始めた。

そういえば、彼女が嘘をつくのは大抵月初め、月経時の憂鬱症と関係あるに違いないなどといったあの医師の話を、そのまますべて鵜呑みししてしまって良かったのだろうか……。

面白く読んでいたはずなのに、ふと振り返ると言い知れぬ不安と謎が広がる地獄がぱっくりと口を開けていた。