かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『第二世界のカルトグラフィ (境界の文学)』

 

地図を広げて、読み終えたばかりの物語を思い出しながら、あの町この町と指でたどってみる。
私はそんな時間が好きだ。
本好き仲間を誘って、本で旅する世界旅行を計画したこともある。
だからタイトルにある「カルトグラフィ」という言葉には強く惹かれるものがあった。

この本はフランス語圏の文学の研究者で翻訳家でもある著者が、2017年~2021年にかけて『図書新聞』に連載した「感傷図書館」をベースに加筆、再構成したもので、ブックガイドであると同時にちょっと変わったトラベルガイドでもある。
出版を手がけたのは『図書新聞』の突出広告でもお馴染みの共和国。

「カルトグラフィ」を含んだのタイトルもさることながら、お気に入りの出版社共和国の、これまたお気に入りの“境界の文学”シリーズとあっては、読み逃すことは出来まい。
そう思って迷うことなく2022年出版されると同時に購入したのだが、例によって例のごとく積読棚にしまいこんでしまっていた。

今回、共和国創立10周年を記念した“棚卸し”により、ようやくページを開いたものの、いやはやこれはまいった。本当にまいった。

“境界の文学”が、読み応えがあるだけなく、あれもこれもと読みたい本を容赦なく積み上げていく、恐ろしいシリーズだったということを思い出しても、後の祭りだった。

そもそもの話「第二世界」からして、パトリック・シャモワゾーの『カリブ海偽典』から引用された言葉だというのだ。
カリブ海偽典』……かつて手に取ってはみたもののそのボリュームにたじろいで、そっと棚に戻したんだったよな……と、思い出しつつ読み進めると、(いやだって、これはダメでしょう。今すぐ読まなくては!)という気になってしまう。

理想社会の夢が潰えたあとに、なおも人々のうちに必要とされるユートピアであり、「国家でも、故郷でも、国でもない」ものとして存在する第二世界。
遠くへ出かける必要はない。その場所はとても身近なところにある。
想像力を解き放ちさえすれば、例えばほら、所狭しと積みあげられた本の中にも…。

世界はまだまだ私の知らない面白そうな本が山ほどある!とドキドキしつつ読み進めるも、振られた話題を全く知らなかった!その作家、名前だけは知っていたけれど……と焦ってみたり、大好きな作家と作品に行き会って、なんだか妙にホッとして、この道を進んでいいんだという気持ちになったりも。

そうして私はこの本を読みながら、カリブ海を旅し、アフリカ大陸に渡り、アメリカに立ち寄って、沖縄に向かう。
この作家も、あの本も読んでみたい!読まなくては!心にメモを取りながら、本の中に見いだしたつもりのあれこれが、「現実世界」のものなのか「第二世界」のものなのか、その境界が次第にあいまいになってきたころ、一つのセンテンスに釘付けになる。

救いがたい結末を準備した作品がもたらす教訓とは、ディストピアを虚構のなかで食い止めておくことではないだろうか。(p113)

ディストピア小説について語りながら、この負の想像力を現実に凌駕させてはならない。 という著者が案内する「第二世界」を旅しながら、読み心地の良い本を好みがちな私は、未踏の地をめざして新たな一歩を踏み出すことを決意する。

どこまで行けるかわからないが、本を開いて、新たな場所を訪れ、私だけの地図をつくる……そんな読書を続けていきたい。