アイリーンに頼んだのですよ。家にある鏡を一枚残らず片づけてくれとね。わたしだって鏡が好きだったことはありますとも。けれどそれは昔の話。鏡はあまりにも正直ですから。あの中に映し出される真実は、ひとりの女が耐えられる範囲を明らかに超えています。
こんなひとり語りから始まる物語の主役は、スコットランドの大きなお屋敷にひとりで暮らす、ヴェロニカ・マクリーディ85歳。
最近少しばかり記憶が混乱することがありはするが、今日も今日とて、通いのお手伝いさんアイリーンと見事な掛け合いを繰り広げる気難しい老婦人だ。
このアイリーンもまたなかなかのくせものなのだが、PCを使わないヴェロニカのために、あれこれ調べ物をしたり、メールの代筆をしたりしていくうちに、名脇役の位置に躍り出る。
お茶をしたり、TVを見たりしながら、自分の遺産をどこへどうしようかとあれこれ考えていたヴェロニカはある日、動物番組で南極でおこなわれているアデリーペンギン研究が資金不足に陥っていることを知り、ペンギンが遺産をゆずる相手にふさわしいかどうか見極めるべく、南極に行ってみることにしたのだった!?
<遺産相続人は…ペンギン!?>
< 世界16か国以上で翻訳刊行、明日を生きる希望に満ちた傑作ペンギン文学!>
帯に踊る文字と表紙に描かれた絵からして、かわいらしいペンギンと気難しい老人の物語であることは想像に難くなかったし、昔からかわいいと気難しいはよく似合うものだから、予定調和のハッピーエンドを期待して、気軽な気持ちで読み始めたのだが…。
いやはやこれは、なんというべきか……。
むりやり押しかけた南極圏で、愛くるしいペンギンはもちろんのこと、研究センターで働くあくの強い個性的な研究員たちとの交流や、ペンギンをめぐる厳しい現実なども描かれているのだが、いわゆる自然保護を強力に訴える作品…というわけでもない。
最近までその存在すら知らなかった孫の登場と、その孫パトリックが週一のバイトで食いつなぐ言葉遣いも身なりもなっていない青年であることに失望するも、それでも孫との出会いによって、自分のこれまでの人生と向き合うことにもなって……。
失恋してどん底にいるときに突如現れた「ばあちゃん」にとまどうパトリックのパートもなかなか読ませるものがある。
時々顔を出すペンギンと共に、登場人物たちの人生が次第に交差してゆく物語で、今現在と並行して第二次世界大戦中のヴェロニカの体験も描き出される。
ヴェロニカの行動が周囲の人生も変えていくことに。
登場する人もペンギンもほんの脇役に至るまであくは強いが魅力的。
「ペンギン」の物語であると同時に「ばあちゃん」の物語でもあるけれど、それだけでもなくて、久々に後味のいい物語だった。
訳者あとがきによれば、本作は同じ著者によるペンギン三部作の一作なのだとか。
なにそれ、読みたい!
ぜひとも本作が評判になって、他の二作も翻訳されますように。
