かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

チェーホフの命日だと聞いたので。

以前書いたレビューを引っ張り出して読み返してみた。

そういえばここから、太宰の『斜陽』につるがのびたのだったな。

 

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図書館の新着コーナーで目にした本書を手に取ってみた。
実を言うと私、昔からお芝居を観るのは好きだけれど、戯曲を読むのはどうも苦手だ。
文字を追っても、思い浮かぶのが俳優が演じる“舞台”で、小説を読むときのように物語の中に溶け込めないような気がしてしまうのだ。


けれどもこれは太宰治の愛したチェーホフ
太宰の『斜陽』にも大きな影響を与えたと言われる『桜の園』であるからして、やっぱり読んでおかなくては、と意を決したというわけだ。
ちなみに私、お芝居は観たことがあるが、恥ずかしながら原作を読むのははじめてだった。


かみ合わない会話が醸し出す皮肉たっぷりのユーモアは、光文社のこのシリーズの雰囲気とマッチしているのかもしれない。
会話は軽妙で、非常に読みやすく、少々あっけないぐらいにあっさり読みすすめることが出来た。
「オソレイリヤノ…」とか「結構毛だらけ…」といった(やり過ぎかも…?)と思われる訳がなくはなかったが、これもたぶん、舞台を見ていたら、クスッと笑って聞き流せる許容範囲なんだろうという気がしなくもない。


かつて広大な領地とともに繁栄の象徴でもあった桜の園
その領地は借金のカタに競売にかけられ、没落した一家は家を後にしてそれぞれ別々の道へ進むことを余儀なくされる。
そう聞くと、日本人的感覚で散りゆく桜の花を連想してしまいがちだが、この場合の桜はサクランボの果樹で、その実は、干したり、砂糖漬けにしたり、ジャムにしたり、酢漬けにしたり……まさに繁栄の象徴でもあった木々なのだ。


そこに繰り広げられる思い出や悔恨や嘆きや希望……登場人物それぞれが自分の思考にとらわれて、全くかみ合わない会話もあれば、すれ違う気持ちもあり、当人同士は成り立っていると思っている会話ですら実はとんでもない不協和音を奏でていたりもする。
一見悲劇のようにみえて、やはりこれは喜劇だ……という点に、太宰に通じるものを感じた。


同時に収録されている「プロポーズ」と「熊」は、いずれも1幕もの。
登場人物も少なく、“家”の中で繰り広げられるあれこれがあわれなほど滑稽で、思わず苦笑いしてしまう作品たちだった。

                  (2013.2.12 本が好き!投稿)