オックスフォード大学出版局(Oxford University Press)の"Very Short Introductions" (VSI) は、歴史や政治、宗教、哲学、科学、時事問題、ビジネス、経済、芸術、文化など、様々な分野の特定の研究領域やテーマを、専門家による分析や新しい見解を盛りこみながら平易に解説する入門書シリーズとして世界で広く知られている。
VSIの本は、日本でも岩波書店の「一冊でわかる」シリーズや、丸善出版の「サイエンス・パレット」として翻訳出版されているので、1つ2つ読んだことがあるという方もおられるだろう。
すばる舎の「14歳から考えたい」シリーズでもこれまでに『貧困』『優生学』『レイシズム』が翻訳出版されている。
さまざまな分野について専門家が比較的簡潔な解説をしているシリーズ本の翻訳ということもあって、本書もまた豊富な註釈も含めて、わかりやすく丁寧に書かれた入門書となっている。
著者はペンシルバニア大学の教授で、専門はアフリカ系アメリカ人研究。弁護士でもあって、翻訳本には『引き裂かれた家族を求めて:アメリカ黒人と奴隷制度』(彩流社)もある。
始まりは1441年、航海王と名高いエンリケ王子の命により、一艘の船がポルトガルの港を出港するところから。
第一章は「大西洋奴隷貿易」だ。
かつてポルトガルの青空の下で見た「発見のモニュメント」が全くちがったものに見えてきてしまいそうな記述にショックを受けるが、今回はそこがメインではないのだから、この点はまた別の機会に突き詰めて考えてみることにして、先へ進むことに。
アフリカ人がどのように奴隷にされていったのかを理解するには、アメリカにおけるヨーロッパ人の入植の背景を知る必要があるとして、イギリス人やオランダ人が大陸に入植していく過程の記述もそれなりに詳しい。
アフリカから連れていった人たちを奴隷とするだけでなく、先住民族の奴隷化も進むが、幾つかの過程を経て1706年には先住民族の奴隷はすべて廃止され「奴隷は(アフリカの)の黒人のみとする」と定められる。
それはなぜか、という点については比較的あっさりと説明づけられ、その結果、先住民族がどのように扱われるようになったかという点については、もっとあっさり片付けられている。
もちろんこの本の主題はそこにないのだから、やむを得ない面もあろうが、そこはそれ、今後に課された読み手への宿題というところか。
次第に堅固になっていく奴隷制度の元で、奴隷貿易は、自由黒人は、白人と黒人の結婚は、奴隷が産んだ子どもは……といったあれこれや、アメリカ農業における主力作物の変遷などは、以前読んだタナハシ・コーツの『ウォーターダンサー』を地で行くよう。
もちろんあちらが、史実をもとにした小説なのだから、当たり前といえば、当たり前なのだが。
南北戦争については、知っているようで知らないことも結構あって、ここもまたいずれもう少し深めてみたいところ。
中南米に渡った人たちのことも、さらっと触れられてはいたが、引き続き追ってみたい。
そうこれは「14歳から考えたい」というシリーズだ。
14歳×○倍も生きてきた私だけれど、これからもあれこれ考えていきたい。
A Very Short Introduction
導入部は押さえたから、この後は読者が各々が自分で調べ、考えていくようにと諭された気がした。