かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『宝島』

 

かつて世界中の海を荒らし回った伝説的な大物海賊が、隠した財宝のありかを記したという地図。

腕に覚えがある者ならば誰もが欲しがるその地図を手に入れた少年が、海賊たちを出し抜いて、お宝を手に入れるべく大海原へと乗り出していく冒険譚。

あまりにも有名な物語なので、すっかり知っているつもりになっていたけれど、きちんと読むのは初めて、これもまた例によって例のごとく 『やりなおし世界文学』からの派生読書だ。

 


原作は子ども向け雑誌『Young Folks』に1881年から1882年にかけて連載、1983年に加筆修正されて1冊にまとめられて出版されているが、元々は作者のスティーヴンソンが妻の連れ子のロイド少年と遊ぶ中で生み出した物語なのだという。

 大地主のトリローニさんや医者のリヴジー先生、みんなにいわれて、ぼくは宝島のことを最初から最後まで詳しく書き記すことにした。なにも包み隠しは要らないが、まだ一部掘り出していない宝もあるから、島の方位だけは明かさぬようにといわれた。そこでぼくは、いま、一七--年にペンを起こし、話は父がまだ《ベンボウ提督亭》という旅亭をやっていたころのある日、赤銅色の顔に刀傷の走る老いた水夫が投宿したときにさかのぼる。

物語はこんな風に幕を開ける。

死人箱島に流れ着いたは十五人
ヨー、ホッ、ホー、酒はラムがただ一本


奇妙な歌を口ずさみ“キャプテン”を名乗るその男は、浴びるほどラム酒を飲み、不潔でだらしのない乱暴者だったが、いつも何かに怯えているようで、“片足の船乗り”を見かけたらすぐに知らせろと、旅亭の一人息子であるジム少年に言い含めるのだった。

ほどなくジムの父親が病気で亡くなるのと時を同じくして、“キャプテン”も大酒がたたって、海賊たちとの決闘前に死んでしまう。

ジムはたまった宿代を回収しようと探ったキャプテンの遺品の中から、一枚の地図を見つけるのだ。
これが海賊たちが欲しがっている“獲物”だと直感したジムは、父を看てくれていた医者で治安判事でもあるリウジー医師の元にかけつけるのだった。
こうして、地元の名士である地主のトリローニを船主に、リウジーを船医に、宝探しの旅に出ることに。

いやいや、まてまて、地主さんはともかく、元海賊たち相手でもひるむことのない、良識の塊みたいなリウジー先生が、そんなに簡単に仕事をほっぽり出して宝探しにでてもいいのか!?と、大いに首をかしげるが、これがねえ、どうやらいいらしい。
地元の患者たちの為に、代わりの医者もちゃんと用意し、旅先では敵味方の区別なく、怪我人や病人の治療にあたる。公明正大で正真正銘の“紳士”である彼は、私利私欲に走って宝探しをするわけではなさそうだ。

地味にいい役のリウジー医師の存在に注目しつつも、もちろん『宝島』を語るうえで欠かせない男ジョン・シルヴァーに触れないわけにはいかない。

片足をものともしないすぐれた身体能力と、ならず者らしからぬ冷静さ。
群を抜いて回転の速い頭脳の持ち主であるシルヴァーの一番の恐ろしさは、夢にうなされるほど“片足の船乗り”を警戒していたジムでさえもあっさりと丸め込むそのカリスマ性。
昨日の敵は、今日の味方、そして明日はいったいどうなっている?
二転三転する立ち位置ともにシルヴァーからは一時だって目が離せない。

他にもなかなか魅力的な登場人物がいっぱいで、この際だったキャラ立ちが、この作品の最大の魅力とも言えるかも。

海洋冒険物にありがちな植民地主義的な色彩や、人種的偏見が濃くないことにも好感が持てる。

ジム少年の語りで始まるからには、物語の結末はある程度約束されている。
にもかかわらず最初から最後まで、面白くて目が離せない。
長く読み継がれてきたのも納得の“やりなおし”甲斐のある一作だった。