かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『夏』

 

 アインシュタインならきっとこう言う、とロバートは言った。人類は星を眺めることで最高の知的な道具を手に入れた。でもだからといって、僕らがその知識を使って何かをしたとき、星にその責任を負わせることはできない。
 うわ、とシャーロットは言った。ロバート。その言葉、最高。
 そう?ロバートは言った。
 彼の体から喜びが放射していた。
 でも、僕の言葉じゃない、と彼は言った。アインシュタインの言葉さ。
 でも今そう言ったのはあなた、とシャーロットは言った。あなたはこの瞬間のために言った。今のは、ほら、的を射た発言よ。ノックアウトパンチ。完璧なタイミング。ホールインワン。  (p385)


年上の女性に憧れを抱く、アインシュタインに夢中の少年ロバート。
ネットを介して執拗ないじめに遭う彼は、母グレースと姉サシャの頭痛の種でもある。
サシャはサシャで人類の悲惨な未来を一身に背負っているかのように、気候変動、移民問題、新種のウイルスなど様々な問題に頭を悩ませ、憤っている。

ある日、サシャは母親の形見の石を元の持ち主に返しに行くために旅をしているというアートとその連れのシャーロットに出会う。
ああ、ここに『冬』が、と読者は思う。

 

アートとシャーロットは、ロバートとサシャの母親グレースと意気投合し、アート達のドライブ旅行に同行することに。

アートが訪ねていったのは、100歳を超える老人ダニエル。
そんな彼を見守るのはかつてダニエルの隣人だったエリザベスだ。
あっ!『秋』を見つけた。

ダニエルが夢見ているのは、第二次大戦中、ドイツ系ユダヤ人として収容された敵性外国人の収容所のこと。
生き別れになった妹のこと。

そして最終盤にはもちろん『春』も。

 

アリ・スミス四季四部作最終巻は『夏』。
これまで同様、いくつかの断片がちりばめられて、読者がそれを一つ一つ読み解いていくと、いつの間に一つの長編を読み終えている、というコラージュのような物語だ。

そうして秋冬春夏とすべて読み終え、改めて周りを見回してみると更に、スケールの大きな作品に取り囲まれて、ちょうどそのど真ん中に自分が立っていることに気づく。

これはもう、圧巻と言うしかない。

読み終えたばかりの『夏』を一旦脇におき、再び『秋』を迎えに行く必要がありそうだ。