かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『思い出のスケッチブック』

 

もしもプーさんにあの挿絵がなかったなら……。
なんだかちょっと想像できない。
だってほら、もしも
A.A.ミルンの『クマのプーさん』を読んだことがなかったとしても、
E.H.シェパードの描いたプーさんを見たことがない人はいないのではなかろうか。

本書はそんなプーさんの挿絵画家として知られるE.H.シェパードが
自らの幼年時代をたっぷりのイラスト共に描いた自伝エッセイだ。

大好きな母さん、
幼い少年に画才を見いだす父さん
ピアノが上手で真面目でやさしい姉さんのエセル
いつも遊び相手だった年の近い兄さんのシリル
家族同様に暮らしていた料理人のリジー
自慢の木馬、田舎の農園で過ごす夏の休暇、
きょうだいで上演するお芝居、
みんなで過ごすクリスマス

ヴィクトリア朝後期の英国、ロンドンで少年時代を送ったシェパードが、
70年前のあれこれを回想しながら、
家族やそのまわりをとりまく人々や、当時の街並みやできごとを、
120点あまりのユーモアあふれるイラストとともに語りあげた本は、
ページをめくるだけで思わず頬がゆるみ幸せな気分になれるお薦めの1冊だ。

けれどもその一方で読者は本の冒頭で、
この幸せな記憶の後、間もなくして、
最愛の母が病に倒れ早世してしまったことも知らされていて、
この家族にとってこれが、
最も幸せな時期だったのであろうことをも知っている。
それだけになおさら、せつなく愛おしくもあるのだった。