かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『幼ものがたり』

 

『ノンちゃん雲に乗る』の作者で『クマのプーさん』の翻訳家、石井桃子さんには小さい頃から随分お世話になってきた。
この本は1907年生まれの桃子さんが、「古希」を迎える頃に執筆した幼い頃の回想録だ。

 

物心ついて以来、何となく6人ひとかたまりのように考えてきた「きょうだい」が、1人2人と欠けていき、ついには自分ひとりになってしまったという桃子さんが、あれこれと思い出しながら語るのは、両親のこと祖父母のこと、4人の姉たちや兄のこと、同居していた「まあちゃん」のこと。

皆に世話を焼かれ、かわいがられて育った、大所帯の中で一番小さな女の子。

私にも心当たりがあるけれど、幼い頃の思い出というものは、どこまでが自身の記憶で、どこからが後に周囲から聞かされた後付けの記憶なのか、はっきりしないところがある。

そのくせどういうわけかところどころ場面場面が鮮明で、そういう思い出のシーンから、あれやこれやと枝葉の記憶が甦ってきたりする。

桃子さんとおじいさんの思い出に、私自身の大好きだった祖父の面影を重ね、普段は子守などしないお兄さんが桃子さんを連れて出かける場面で、母の長兄(私の伯父)がデートのダシに末の妹(私の叔母)を連れて出かけたという、その昔身内の誰から聞きかじったエピソードを突然に思い出して思わずにやりとしたりする。

幼ものがたりの舞台は明治の終わり頃で、私にとっては祖父母世代の話のはずなのに、読んでいるとどういうわけか胸が痛くなるような懐かしさでいっぱいになった。