かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『曲亭の家』

 

お路には、
初めて顔を合わせた見合いの席から
既に嫌な予感があったのだ。
とはいえ、結婚は両家の親が決めるものであったし、
なによりも彼女自身が
「天下に名高い曲亭馬琴の家に嫁ぐ……」
その誘惑に抗えなかったのだ。
とはいえ、嫁いで半月もしないうちに、
激しく後悔することになったのだが……。


当代きっての人気作家曲亭馬琴の嫡男で
松前藩のお抱え医師でもある宗伯に嫁いだお路を主人公にすえ、
独裁的で横暴な舅馬琴と
いつもひとことふたこと多い姑、
何事にも父親第一で、病弱で無口、生真面目な性格ながら
一度キレると抑えが効かないかんしゃく持ちの夫との
暮らしぶりを軸に、
大長編里見八犬伝執筆の舞台裏に迫る物語。

独裁的な舅に常に振り回されて
八犬伝」のことを恨めしくさえ思っていたお路が
人はなぜ、読物、絵画、詩歌や芝居など、
衣食住に全く関わりのないものを、求めるのかを悟るとき、
読者もまた、
「そうそうそうなの!」とお路と作者に喝采を送ることになるのだが、
それでもやっぱり「嫁」の立場としては、
お路に深い同情をよせずにはいられなかった。