かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『家宝』

f:id:hatekamome:20210814072729j:plain

『家宝』

“ルビーには、中にインクルージョンがある。
インクルージョンというのは異物のことで、宝石が不純なことを意味する。
それは小さな管であったり、気泡であったり、ルチルのように別の鉱物の破片ということもある。
ルビーの場合、それは品質の低下を意味するのではなく、むしろ反対で、それが保証になる、宝石が本物だという証拠だから”

マリア・ブラウリアにそう手ほどきをしたその男は、彼女の目をじっと見つめながら、君の結婚は少しこのルビーと似ていると、続けたのだった。

“確かに”と彼女は考える。
彼女の結婚には小さなインクルージョンがあった。
夫婦の間には、婚約の際に夫から贈られたルビーの指輪に関する重大な秘密があったし、裁判官だった夫は彼の私設秘書だった男性と親密な関係にあった。
そしてまた、彼女自身もその結婚生活に新たな秘密を付け加えもする。
もっとも、その秘密が、誰と誰の間で共有され、誰に対して秘されていたのかは、互いに確認し合うことがないだけに、誰にもわかり得ないことではあったけれど…。

1991年にブラジルで最高の文学賞と言われるジャブチ賞(小説部門)を受賞したというこの作品。
130ページほどの比較的短い作品の中に、語りのリズムや表現の美しさが感じられるのは、作家というより詩人として知られている著者の作品を、訳者が丁寧に訳したからに違いない。

真相は?真実は?と考えながら読み進めるうちに、「本物」の意味についてもまた考え始める。
この世に不純物を一切含まない純粋な物などあるのだろうか。
幸福とはいったいなんだろうか、と。