かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『あの図書館の彼女たち』

 

ナチス占領下にあったパリのアメリカ図書館の状況など、実在の人物や史実を下敷きにして語られるフィクション。

物語の舞台は1939年~40年代のフランス・パリと1980年代のアメリカ・モンタナ州のフロイド。
二つの時代、二つの街をつなぐのは、オディールという女性だ。

1939年のパリ。
オディールは警察署長の父の反対を押し切って、パリのアメリカ図書館に司書として就職する。
娘が結婚して安定した生活を送ることを親が望んでいることは十分承知していたが、オディール自身は安定のためには、自立と自活は必要だと考えているのだった。

彼女の良き理解者は双子の片割れレミー
もっともオディールの方は、弁護士養成学校を中退して軍隊に志願したレミーの決意を応援できずにいたのだが…。

図書館で共に働く仲間たちや、個性豊かな利用者たちとの交流の中にも、たくさんの本が出てきて、本好きの読者を喜ばせる仕組みは十分。
またまた読みたい本のリストが伸びてしまうのもお約束だ。
もちろんパリだ。おしゃれの話もロマンスもある。

やがてドイツ軍がやってきて、パリが占領下に置かれ、不自由な規制や、窮乏や、言い知れない不安が襲ってきても、戦場でレミーが捕虜となりその安否が気づかわれる段になっても、レミーが無事に戻ってこないうちは、恋人と結婚して自分だけが幸せになるわけにはいかないと思い詰めていても、外出制限のため図書館に来ることが出来なくなった利用者たちのために、秘密裏に本を配達する取り組みを始める段になってもなお、オディール自身にはあまり切迫感が感じられない気が。

戦禍にあっても人々の暮らしは続き、恋だってするものと解ってはいても、読み手はなんだかもやもやしてしまう。


一方、1980年代のフロイドでは、かつて“戦争花嫁”としてアメリカに渡り、今では夫も子どもも失って、周囲との接触もほとんど無いままに孤独に生きるオディールと、隣家に住む少女リリーとの交流が。

リリーにフランス語を教えながら、次第に心を開いていくオディールだったが、やがてリリーの好奇心がオディールが抱えてきた苦悩を暴き出すことに。

戦争の悲惨さを描きながらも、きれいにまとまりすぎているような気がしていたのだが、終盤になってようやく、きれい事のように見えていたのは、その中にオディールがあえて見ようとしなかった真実が隠されていたからだったのだと、読者も気づくのだった。