かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『蝶として死す: 平家物語推理抄』

 

平家物語』は読んだことがないのだけれど……と思いつつも手に取ってみたのは、第15回ミステリーズ! 新人賞受賞作「屍実盛」を含む、平清盛の異母弟・頼盛が主人公の“歴史ミステリ連作集”。

源平の合戦前後の時代を舞台に、平忠盛とその正妻で「夫ノ忠盛ヲモモタヘタル者(夫の忠盛をも支えるほどの者)」と言われた実力者宗子の子でありながら、いやむしろそれ故に、異母兄で平家一門の頭領である清盛に疎まれ、やがて平家と決別し、都で生きのびることになる平頼盛を探偵役に、平清盛木曽義仲源頼朝北条時政ら、毎回豪華大物ゲストを迎えて語りあげる物語たち。

清盛が都に放った童子は、なぜ惨殺されたのか?
高倉天皇の庇護下にあったはずの寵姫は、どのようにして毒を盛られたのか?
三月前の戦で落命した斎藤別当実盛の首を、胴体と共に葬るために首がない五つの屍のうちどの屍が実盛のものか特定すべし。

等々、確かに謎があり謎解きもあるのだけれど、推理物としてはかなり突っ込みどころが多い。

とはいえ、時にはずるがしこく、時に汚名をきせられても歯を食いしばって、自分の家族と一門の命を守り抜くために頭を働かせて立ち回る主人公頼盛が魅力的で、読者をぐいぐい引き寄せる。

異母兄清盛に疎まれて、その思惑に翻弄される若き日の頼盛と、頼朝をも手玉に取る老獪ぶりを身につけた後年の頼盛を読み比べるという楽しみもあった。


収録作品
「禿髪(かぶろ)殺し」
「葵前(あおいのまえ)哀れ」
「屍実盛(かばねさねもり)」
「弔千手(とむらいせんじゆ)」
「六代(ろくだい)秘話」