かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『ミカンの味』

 

 中学で同じ映画部に所属するソラン、ダユン、ヘイン、ウンジは「いつも一緒にいる4人」として学内で知られる“仲良し”だ。

そんな4人が、3年に進級する直前に行った済州島旅行で枕を並べ、揃って地元の同じ高校に進学しようと約束し合ったのは、前々からそうしようと話し合っていたなどということではなく、むしろ衝動的な決断だった。

とはいえ、後から冷静に振り返ってみれば、そうと意識していた者もいなかった者も、4人それぞれが、各々内に秘めた感情や計算に基づいて出した結論だったことは間違いない。


物語は、この約束をめぐって揺れる4人の少女たちの中学最後の一年を、それぞれの生い立ちや家庭の状況などをまじえて語る形で展開する。

家族構成や、経済的な事情、親の娘に期待することなど、家庭の状況は様々で、友だちの気持ちが推し量れないだけでなく、自分自身の気持ちさえよくわからない。

そんな少女たちの物語を読んでいるうちに、世界が学校と塾や習い事と家だけで成り立っていて、友だちと教師と家族との関係がすべてだったあの頃の息苦しさが蘇る。

おそらくは、少女たちと、かつて少女だった者たちだけが知っているのであろう感情が、繊細かつ鮮やかに描かれていて、懐かしさだけでない、様々なものがごちゃ混ぜになったような、切ない想いがこみ上げてくる。

チョ・ナムジュという作家は、読み手が思わず(ああ、これは私のことだ)と思ってしまうような、ひりひりとした感覚を呼び起こすのが抜群に上手い。