かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『孤児列車』

 

両親や弟妹、愛する人の幽霊と共に長い年月を生きてきたという91歳の女性ヴィヴィアンは、人生を振り返り、自分は運が良かったのかもしれないと思う。

彼女は9歳の時、理想の両親像の幽霊を与えられ、23歳の時、心から愛する人の理想像の幽霊を手に入れた。
幽霊には裏切られることも、失望させられることもない。

一方、17歳のモリーにとっては、人生は失望の連続だ。
亡くなった父はさておいて、夫の死から立ち直れずに麻薬に溺れて身を持ち崩した母、「今度こそは」と、わずかの期待をもつことすら許さなかった里親たち。
ゴシック・ファッションで身を固め、孤高の不良少女役に徹することで、モリーは自分自身を守ろうとしている。


1854年~1929年にかけてアメリ東海岸の都市から中西部へ、養子縁組のために20万人以上の孤児を輸送したという「孤児列車」。
児童救済協会の表現を借りると「彼らは暖かい家族に囲まれてかわいがられ、社会生活に順応できるよう教育を受けることができ、それが彼らのためになる」と考えられていた。
だが実際には、列車に乗せられた子どもたちの多くは、労働力として期待されており、きびしい環境下で肉体労働を強制され、虐待を受けた子どもも少なくない。
孤児たちが中西部の州に送られていった時代は、東部の州の町で孤児が増え、孤児院に収容しきれなくなった時代でもあり、人手がほしかった中西部の農家の要求にもかなうものだったのだ。
運良く望まれた家庭の子どもとして育てられたとしても、きょうだいが引き裂かれたり、自分の出自を知る手がかりを失っている場合も多かったという。

ヴィヴィアンはかつてその列車に乗せられて、見知らぬ町の見ず知らずの人びとの中に投げ込まれたあげく、いくつかの「家」を転々とさせられた経験を持つ。

今は独り暮らしの裕福な老婦人となったヴィヴィアンにそんな過去があったことを知る人はいなかったが、やがてもう一人の“孤児”モリーと共に、それまでずっと心に秘めてきた記憶をたどることになる。

タイトルとテーマからしてきっと少しばかり堅苦しい本に違いないと思いながら、ページをめくり始めたのだが、ヴィヴィアンの過去とモリーの現在が並行して語られていくせいか、意外なほどに読みやすく、物語に分け入っていくことができた。

エンディングはいささか都合良すぎて拍子抜けするところもあるが、それでも物語の裏に秘められている語られることのない、かつての、そして現代の、沢山の子どもたちの困難な人生に思いをはせて、こみ上げてくるものがある。

           (2015年08月16日 本が好き!掲載