かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『セルリアンブルー 海が見える家 下』

 

魔法青少年担当省(ディコミー)に所属するケースワーカー、ライナス・ベイカーは、ある日突然、最上級幹部たちに呼び出され、最高機密レベル4の任務を任される。

その任務とは、極めて特殊な場所にある、極めて特殊な子どもたちを集めた、極めて特殊なマーシャス児童保護施設の実態を調査報告することだった。

この施設で暮らす子どもたちは全部で6名。
ノームの子タリア、森の妖精フィー、飛竜の子セオドア、びっくりするとポメラニアンに変身する少年サルに正体不明の緑色の生物チョーンシー、そして魔王の子ルーシーだ。

1か月にわたって共に生活してみれば、公正な見解の妨げになるという理由から個人的な交流を一切禁止するディコミーの「ルールと規則」を遵守するのは無理な話。

個性的すぎる子どもたちに、はじめのうちこそ恐れ戸惑ったライナスだったが、あれやこれやと経験するうちに、彼ら一人一人の魅力を実感するようになっていく。

一族の虐殺、乱獲、自身への虐待等々、マーシャスにたどり着くまでに、子どもたちが実際に目撃したり、経験したりしてきた“普通”の人たちによる残虐な行為。

ようやく安心できる場所、信頼できる大人にめぐりあえた子どもたちだったが、一歩島を出れば、温かい目で見守ってくれる大人は少なく、未知なるものを恐ろしがって迫害しようとする“普通”の人たちであふれている。

ライナスは施設の存続だけでなく、もっと大きな視点で、子どもたちの成長を見守る必要性を感じ始める。

子どもたちが初めて村に遠征したとき、ライナスとルーシーともに園芸店に立ち寄ったタリアは店主に説明する。
ミスター・ベーカーが一緒にいるのは、あたしたちが飢えたり袋だたきに遭ったり、おりに入れられたりしないように目を光らせるためよ。

ミスター・ベーカーも全然だめってわけじゃない。確かに、おじさんが島に来たばかりのころは、おれも怖がらせたて追い払おうとしたけど、今は生きててくれてよかったと思う。別の……別の状態になってなくてさと、相づちをうつルーシー。

ライナスは天井を見上げたり、溜息をついたり。
だがもう、子どもたちの一挙一動に動揺したりはしない。
心配なのは、子どもたちが誰かに傷つけられないかそればかりなのだ。

一方、ディコミーの最上級幹部は、子どもたちのことだけでなく、施設長であるアーサーのことも詳細に報告するよう強く要請してくるのだった。



あらすじを紹介するとどうにも堅苦しくなってしまうのだけれど、「誰にだって安心して過ごすことができる場所が必要なんだ」という強いメッセージとともに、シリアスな中にも笑いがいっぱい、面白くて、愛おしくて、強くてやさしい、繰り返し楽しみたい極上のファンタジーだ。
現に私はもう、この島から帰りたくなくて、あのシーン、このシーンと何度も読み返している。