かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『セルリアンブルー 海が見える家 上』

 

タイトルや装丁から、人生に疲れた大人が癒やされるような、ファンタジーだと思いこんでいたから、主人公が40歳の男性だと知っても、さほど驚きはしなかった。

でもこの40男のライナスが、高血圧で青白い肌、黒い髪は常に短くこざっぱりとしているも、頭頂部は薄くなってきていて、今はスクーターのタイヤ程度だが、気をつけないと大型トラックのタイヤのようになりそうなぜい肉を腹回りに蓄えている……ようするに、大半の40代と同じような平凡で、大半の人よりもさらに影が薄いという設定は少々意外だったし、仕事熱心で真面目だが、パワハラ上司の顔色をうかがってオロオロするような人物だとは、思ってもみなかった。

彼は勤務歴17年の、魔法青少年担当省(ディコミー)に所属するケースワーカーで、“子どもが怪我をした”とか“子どもが怪我をさせた”とか、“虐待の疑いがある”とか“制御不能に陥っている”などという情報が寄せられた現場に出向き、調査対象の児童保護施設の状況を確認するのが仕事だ。

たとえそれがどんな子どもであっても、子どもたちの幸福は大事だと考えてはいるが、全体的な視点で考えることも必要で、見解に影響を与えられてしまう恐れがあるから、個人的な交流は禁止するというルールを厳格に守っている。

ディコミーの規則集「ルールと規則」をバイブルであるかように携帯し遵守する模範的な職員であるライナスは、直属の上司は決して認めないだろうし本人も全くあずかり知らぬことではあったが、最上級幹部には「非常に几帳面でまじめ、驚くほど論理的」と評されていた。
だからこそ今回、最高機密レベル4の調査を任されたのだろう。

この指名にライナスが仰天したのは無理もない。
なにしろ彼は、理論的にはありえるとわかってはいたものの、いまだかつてレベル4の機密が実際に存在することすら知らなかったのだ。
レベル3のケースなら一度だけ扱ったことがある。
あれは本当に大変だった。
ある児童養護施設にいた少女が人の死を予告する妖精、バンジーだと判明したのだ。
あのとき、ライナスはやっとの思いで自分と子どもたちの命を救うことに成功したのだった。

それはさておき、今回の任務は「検査」だという。
なんらかの不正行為が行われているという話はないが、極めて特殊な子どもたちを集めた、極めて特殊なその施設が、問題なく運営されているかどうか、1か月かけて調べてこいというのだった。

抱えている多数の案件をほうって、1か月も一つの案件にかかりっきりになるわけにはいかないというライナスの声はほとんど無視され、翌日彼は田舎に向かう列車に乗り込み、終点で降りて、さらに渡し船に乗って、マーシャス児童保護施設に足を踏み入れることになったのだった。

そこで彼を待ちうけていたのは、島を守る精霊ゾーイと謎多い施設長アーサーに、ノームの子タリア、森の妖精フィー、飛竜の子セオドア、びっくりするとポメラニアンに変身する少年サル、正体不明の緑色の生物チョーンシー、魔王の子ルーシーという、存在自体が機密事項とされる6人の子どもたちだった。

ちなみにノームの子、タリアは263歳だが、ノームは500歳にならないと成人年齢に達しないので、子どもの資格十分なのだとか!?

上巻前半はところどころにファンタジーネタを仕込みながらも、なかなか味わいと読み応えのあるお仕事小説といった雰囲気だったが、ライナスが島に着いた途端に、一気にファンタジー熱が上昇し、もう息が苦しくなるぐらい。

まずいよこれ、面白すぎる!!
頁をめくる手が止められずに、このまま下巻へとひた走る!!