かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『剃髪式』

 

本作はチェコの作家ボフミル・フラバルによる中編小説。
人文系専門書を中心に出版活動を続けているという京都の出版社松籟社さんの「フラバル・コレクション」第2弾だ。

ボフミル・フラバルという作家は、ミラン・クンデラ、ヨゼフ・シュクヴォレツキーと並んで、20世紀後半のチェコ文学の代表者の一人と目されていて、本作も1980年に当時のチェコスロバキアで映画化されてもいるのだけれど、残念ながら日本にはまだ数作しか紹介されていないので、この「フラバル・コレクション」には大いに期待したいところ。

この物語の舞台は、建国間もないチェコスロヴァキアボヘミア地方ヌィンブルクのビール醸造所。
実際に「ビール醸造所で育った」というフラバルが、自身の母親を語り手にすえて描くのは、美しい髪をたなびかせて自転車にのり、工場の煙突にのぼって街を見下ろす、やんちゃで怖いもの知らず、いつも元気いっぱいで豪快にビールを飲み干す支配人の若き妻マリシュカ。
堅物だが妻にぞっこんの夫フランツィンと、二人の生活に突如割り込んでくる騒がしくユニークな夫の兄ヨゼフおじさん。

ただでさえ飛んでいるマリシュカに、とにかく賑やかではちゃめちゃなヨゼフおじさんが加わって、巻き起こす騒動の数々ときたら!
よくもまあ、フランツィンは支配人の職を失わずに済んだものだと思わず苦笑いしてしまうほど。
それでもいつの間にかすっかりマリシュカの語り口調に乗せられて、屋根の上から見下ろす街の景色の描写に思わずうっとりしてしまうのだ。

これまで翻訳されたフラバル作品に比べるとずっと読みやすく、明るく楽しい中編だが、これまで同様、そばにいたら困るけれど憎めない愛すべき人たちで溢れていて面白い。
読みながらやたらと喉が渇いてビールをぐびぐびと飲みたくなるので、これからの季節にぴったりといえるかもしれない。

           (2014年07月21日 本が好き!投稿