かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『時の止まった小さな町』

 

人文系専門書を中心に出版活動を続けているという京都の出版社松籟社さんの「フラバル・コレクション」第3弾は、前作『剃髪式』の後日譚。
続編ではあるが、『剃髪式』で読み手をアッと驚かせるほど、はつらつと飛び回っていた著者の母をモデルにしたという若妻マリシュカはほとんど出てこない。
代わって物語を語るのは、マリシュカの一人息子、つまりフラバル自身だ。

水兵にあこがれた少年が、胸に帆船の刺青を彫って貰おうとしたところ、代わりに裸の人魚の刺青を彫らてしまったというトンデモ話から始まる物語は、あいかわらずビール醸造所がある小さな町を舞台だが、今回は語り手の父親でビール醸造所の支配人である堅物で真面目なフランツィンと、彼の兄である陽気ではちゃめちゃな人物ペピンおじさんを中心に進んでいく。

騒々しいほどにぎやかで、息継ぎなど必要ないかの様に饒舌に、次々と語られていくエピソードは、ユニークで破廉恥で時に顔を赤くして目を覆いたくなるほどなのに、指の隙間からついついのぞき見ずにははいられない喜劇ぶり。
そのくせどこか懐かしくて切なくてやるせない気分が漂う。

戦争が始まってやがて終わり、新しいかたちの国ができ、小さな町にも新しい時代が訪れて、人々の役割もその関係も変わっていく。
だかしかしそこには、新しい時代に適応することができない人々もいた。


『剃髪式』が“技術の進歩”によって移り変わっていく時代を描いているとしたならば、この物語は“社会の変革”によって変わっていく日常と、永遠に変わらないと思っていたあれこれが終焉を迎えるせつなさが描かれている。

喜劇を読んでいたはずなのに、思わず目が潤んでしまったのは、笑いすぎたからではなかった。

                (2016年04月11日本が好き!投稿