かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『終わりなき夜に生まれつく』

 

この作品、10代半ばに読んだはずだが、
覚えているのはタイトルと
タイトルの元になった歌の歌詞だけ。

夜ごと朝ごと
幸せと喜びに生まれつく人あり
幸せと喜びに生まれつく人あり
終りなき夜に生れつく人もあり


ヒロインがギターをつま弾きながら歌う歌は
原書では

Every Morn and every Night
Some are born to Sweet Delight,
Some are born to Sweet Delight,
Some are born to Endless Night.


となっていて、
NightとDelightで韻を踏んでいることと、
原題は“Endless Night”だが、
邦題に“生まれつく”をつけたセンスがすごくいい!と思ったこと、
なんだかそればかりが印象に残っていて、
読み始めるまで、中身のことはとんと忘れていた。

けれども、主人公兼語り手のマイクが
“ぼくの話の始まりといえば……”と語り出すと
遠い記憶の彼方から、
眺めの良い丘に建つお屋敷が浮かび上がってきた。

海を望むその美しい“ジプシーが丘”は、
土地を追われたジプシーたちの恨みによって呪われているとされ、
地元の人々から恐れられてもいた。

どんな仕事も器用にこなすが、
どれもこれも長続きしないマイクはこの丘で、
まるで木の精のような、愛らしく優しげな若い女性エリーと出会い恋に落ちる。

このエリー、実はアメリカの大富豪の莫大な遺産を引き継いだ大金持ち。
彼女のまわりには継母だの叔父だの後見人だのと、
いろいろと世話を焼きたがる人たちがいるが、血の繋がった親族はなく、
世話係の女性グレタを頼みに、あれこれを切り抜けていたのだった。

エリーとマイクは周囲の反対を受ける間もなく密かに結婚し、
ジプシーが丘に誰もがうらやむすばらしい家を建てる。

だが、幸せな結婚生活は長くは続かなかった。
それは“ジプシーが丘”の呪いのせいか、
はたまた、欲深げで怪しげなあの人この人の陰謀なのか。

読んでいる途中で結末を思い出したが、
それでも伏線あり、ミスリードありの物語を、
最後までなかなか面白く読んだ。

ちなみに私がこの物語で1番気に入っているシーンは、
マイクがエリーと出会う前の話。
ある画商の店で、彼は3枚の絵をみる。
1枚目の風景画は月並み、
2枚目は女の絵だが、
ひどく釣り合いがはずれているものだから女だか何だかよくわからない。
3枚目は、なんといったらいいのだろう、単純とでも?
いくつかの大きな縁がお互いに画面いっぱいにひろがって、
実に様々な色で思いもよらない奇異な色で、
あちこちに別に何の意味もなさそうな色が転々とおいてある。
だがこれは何かを意味しているのだろう、
この絵を見たらもっと見ていたいという気になったという場面だ。


ミステリを読むつもりで読み始めた本は、
確かにミステリではあったのだが、
でもちょっと、なにか違うものを読んだ気もして、
そんなところも面白かった。