かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『あなたのものじゃないものは、あなたのものじゃない』

 

1984年、ナイジェリア生まれ。4歳の時に家族とともにロンドンに移住し、10代で作家デビュー。
大学卒業後は、ベルリン、ブダペスト、パリ、トロント、ニューヨークと移り住み、2014年からはプラハで暮らしているという“国際派”の作家が2016年に刊行した短編集“What Is Not Yours Is Not Yours”の翻訳版で、9篇の作品が収められている。

むかしむかし、カタルーニャの教会でひとりの赤ん坊が見つかった。
こんな書き出しで始まる巻頭作本と薔薇は、読んでいるうちにどこかに連れて行かれてしまったような気になるほど、ゾクゾクするほど美しくて幻想的。
物語の中の物語を読んでいたはずなのに、いつの間にか内側の物語の方が表に出ていて…、とまるで迷宮に迷い込んだよう。

この曲でいいなと思うのは、女の子の話としてはじまったはずなのに、結局は彼のことばっかりになるところだね
2作目の「ごめん」でお茶はあまくならないが取り上げるのは、スターの炎上案件をめぐるファンとその周辺のあれこれだ。

いつか本当に大事なことを聞き逃してしまうかもしれないとは思わないの、と彼女は言った。人が一度きりしか言えないようなことをだよ?
あなたの血ってこのくらい赤い?に登場するのは、人形遣いの学校に通う少年少女と人形たちだ。


もし家に帰ってきたときその頼ってくれている人が怒っていたら、あるいはがっかりした顔でもしていたなら、もう少し気が楽だったかもしれない。でも、留守のあいだに少しでも居心地のよい部屋にしておこうとけなげにも手をかけてくれて、そのことに気づくと「ああ、気にしないで」とだけ言って信頼の籠もった目でこちらを見ながら明日の話をはじめる人のもとに帰るのは……正直しんどい。明日というものを自分が、あるいは誰かがどうにかできるとでも思っているかのような口ぶりなのだから……。
こんな独白からはじまる溺れる者たちは思いもよらぬ方向に進んでいって…


誰かをもっとも深く愛せるのは、その人に自分の気持ちがバレていないときなんじゃないかって思わない?
てっきりすれ違いのラブストーリーだと思っていた気配はというと…。


有能で、勇気があって、お茶目で、仕事でもその道の第一人者であるにもかかわらず、ある夜、自分の命を救ってくれたスーパーヒーローが、毎日顔をあわせたり一緒に働いていたりする男と同一人物だということに決して気づくことができない---そんな物語の中で生きるのはものすごく変な感じに違いない。
ケンブリッジ大学地味子団には思わず、ニヤニヤしてしまうのだが、その中に出てくる地味子団加入要件“ビガリュール”という言葉の意味、すなわち「さまざまな色が寄せ集まり混じりあうこと」と「話がひとつのことから別のことへと、思いもよらぬ形で魔法のように進んでいくこと」こそが、どうやら作家の紡ぐ物語要件でもあるようで面白い。

そしてこの場合の「色とりどりの面々」とは、「愉快な」「見ていて幸せな気持ちになる」という意味だとするところも。


一見するとその“ビガリュール”意外には共通点がなさそうな物語たちは、かつてあそこにいた人が、数年後ここに登場する…といったとてもゆるやかなでも確かな形で少しずつ繋がっていて、そういうところもまた面白い。


あなたが働いているビルのエレベーターから誰かが出てくるたびに、エレベーターのドアがガラスでできていたらいいのにと思う。そうすればドアが開く少し前に誰が来たのかわかるし、その人に応じた表情を準備しておくくらいの時間もできるだろうから。 
本に鍵がかかっているのには、それなりの理由があるんじゃないにそんな場面があるけれど、思いがけず再会したあの人この人に、つかの間こころを持って行かれたりするのも楽しい。