かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『20世紀ジョージア(グルジア)短篇集』

 

本書はジョージアグルジア)語の翻訳家児島康宏氏が、20世紀初めからソヴィエト連邦時代にかけてジョージアグルジア)文学を担った作家の中から6人を選び出し、それぞれ2篇ずつの短編小説を訳したという短編集だ。

ロシア語版等からの重訳ではなく、ジョージア語から直接日本語に翻訳された最初の文学作品が、児島氏によって訳された私の愛読書『僕とおばあさんとイリコとイラリオン』で、本書にはその作者であるノダル・ドゥンバゼの作品も収録されているとあっては、手に取らないわけにはいかなかった。

収録の順序は作家の生年順で、まず作家のプロフィール、続いてその作家の作品2篇という形で構成されている。
今回はあえて気になる作品から着手することはせず、順番に読んでいった。
とはいえ、物語の舞台となっている年代や執筆年はまちまちで、それぞれ時代にしばられない個性的な作品がそろっているので、どの作品から読んでもよさそうではある。

読み進めていくうちに、彼の地には様々な民族が暮らしていることや、キリスト教イスラム教だけでなく古くから伝わる信仰もあって、それらが複雑に絡み合っている様子もうかがえる。
そしてまた戦争や政治や社会体制の変化によって翻弄されてきた人々のくらしぶりも。

心優しい天使のような娘ソフィオを主役に、群集心理について描いたミヘイル・ジャヴァヒシヴィリ「悪魔の石」を読みながら、「あなたたちの中で罪を犯したことのない者が、まず石を投げなさい」という聖書の言葉を思い出すと共に大勢の中にあって石を投げずにいることの難しさを思う。

コンスタンティネ・ガムサフルディアの「大イオセブ」と「ひげなしのガフ」はいずれも、社会の変化に取り残された男たちの話。

ノダル・ドゥンバゼの「HELLADOS」と「ハザルラ」は、どちらも『僕とおばあさんとイリコとイラリオン』に繋がる作家自身の少年時代をモチーフにした自伝的作品だが、どちらも違った意味で読むものの胸を打ち、どちらも文句なしに素晴らしい。
もっとも14歳の少年を見守るおばあさんが、樹齢55から60という林檎の木と同年代の年寄りと聞いては心中おだやかではいられない。
まあでも、おばあさん、山ほどつらいこともあるだろうに、わんぱく相手にがんばっているよね。そうだよね。と、なんだか自分を慰める気分に。

グラム・ルチェウリシヴィリの「アラヴェルディの祭」のなにがすごいって、これを映像化してしまうところがすごい!迫力ある場面が目に浮かぶよう。2022年2月のジョージア映画祭(東京・岩波ホール)で上映予定とか!観られる人がうらやましい!!

豊かだが厳しい自然、土の匂いと木の香り。
どこまでも続く空とその下で暮らす人々。
人間くさくて率直で、やさしいがちょっぴりずるくて、夢見がちでそのくせとても寂しがり屋で、せつないぐらい哀しいひとたちの物語。
また1冊、大切に思う本が増えた。


<収録作品>
・ ミヘイル・ジャヴァヒシヴィリ「悪魔の石」「無実のアブドゥラ」
・ コンスタンティネ・ガムサフルディア「大イオセブ」「ひげなしのガフ」
・ ギオルギ・レオニゼ「希望の樹」「マリタ」
・ ノダル・ドゥンバゼ「HELLADOS」「ハザルラ」
・ グラム・ルチェウリシヴィリ「唖のアフメドと命」「アラヴェルディの祭」
・ ゴデルジ・チョヘリ「チャグマ爺さんの夢」「ハフマティの月」