かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『ヌマヌマ: はまったら抜けだせない現代ロシア小説傑作選』

 

40年近く現代ロシア文学の最先端と共に走り続けてきた沼野充義氏(=ヌマ1)と沼野恭子氏(=ヌマ2)のお二人が編んだ傑作選。

12篇のいずれもが、過去にヌマ1かヌマ2の翻訳で『新潮』か『群像』で紹介されたことのある作品だというのだが、日本でも知られている作家は ペレーヴィンと ミハイル・シーシキンぐらいで、かなりマイナーなラインナップといえるのではなかろうか。

ちなみに40年近くロシア文学沼に片足を突っ込んだまま過ごしてきた私ではあるが、12作品のうち明らかに読んだことがあると認識できたのは『ロザンナ』と『トロヤの空の眺め』の2作品だけだった。

この2作品の初出は同じ『新潮 1989年11月号 特集・現代ロシア文学の新鋭』だそうだから、多分私もその特集を読んだのだろう。
ということは、それからもう30年以上経っているってことか!と驚愕しつつ、今回読み返してみたところ、初めて読んだその時にもロザンナはぼくがファックした最初のアメリカ人の女だった。と始まる『ロザンナ』には閉口させられたことや、文学史の要素を盛り込んだ『トロヤの空の眺め』が連作の中の1篇だと知り、他の作品も読みたいものだと思ったことなど、あの頃の記憶がだんだんと蘇ってきたから、それだけ当時も印象深かったのだろう。

他にも郷愁を誘うような作品から、どきつさに閉口するような作品まで、いろいろな味が楽しめるアンソロジーなので、全部が口に合わなくても、いくつかのお気に入りは見つけられるかと。

ちなみに私のお気に入りは『庭の体験』『超特急「ロシアの弾丸」』『おばあさん、スズメバチ、スイカ』『トロヤの空の眺め』あたり。
いずれもオーソドックスにロシア文学の香りが漂っているような作品という気も。
自分の“好み”を改めて認識することになったアンソロジーでもあった。


【収録作品】(ヌマ1訳は■、ヌマ2訳は○で表示)
○空のかなたの坊や/ニーナ・サドゥール
○バックベルトの付いたコート/ミハイル・シーシキン
○庭の体験/マリーナ・ヴィシネヴェツカヤ
■聖夜のサイバーパンク、あるいは「クリスマスの夜-177.DIR」/ヴィクトル・ペレーヴィン
○超特急「ロシアの弾丸」/オリガ・スラヴニコワ
ロザンナエドワルド・リモーノフ
○おばあさん、スズメバチ、スイカ/ザハール・プリレーピン
○霧の中から月が出た/タチヤーナ・トルスタヤ
■馬鹿と暮らして/ヴィクトル・エロフェーエフ
○刺青/エヴゲーニイ・グリシコヴェツ
■赤いキャビアのサンドイッチ/アサール・エッペリ
■トロヤの空の眺め/アンドレイ・ビートフ