かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『クリスマスをとりもどせ!』

 

その村の名は“エルフヘルム”。
どこにあるかを説明するのはちょっとばかり難しい。
まあ「フィンランド」だと思ってくれても良いけれど
実際にはラップランドを超えてもっとずっと北にいったその先、
ただ単に“北のはて”と呼ばれている場所にある。
目をこらして地図を見てもみつけることはできないけれど、
その村は確かにあって、その名のとおりエルフたちが住んでいる。
もちろんトナカイも一緒にだ。
それから人間、3人も。
1人はかの有名なファーザー・クリスマス。
ただの人間じゃない。
なんといっても彼はあのサンタクロース!
ドリムウィックというエルフの魔法をやどす身だ。
あとの2人はメアリーとアメリア。
前作『クリスマスを救った女の子』で、
ファーザー・クリスマスに助けられた2人だが、
あのときメアリーはドリムウィックで命を救われ、
彼女自身も魔法の力をやどすようになっていた。
もっとも未だ訓練中で上手く使えたためしはないのだけれど…。
というわけでエルフヘルムに住んでいる
“ごく普通の人間”はアメリアただ一人なのだった。

エルフの村に住んでいて“ごく普通の人間”でいるということははすごく大変なことだ。
エルフと人間では時間の感覚が随分違うし、算数の方式だってまったくちがう。
すばしっこさも手先の器用さも大きな人間の女の子とは比べものにはならないわけで。
おまけにエルフの中には、人間を毛嫌いする者たちもいる。
アメリアが日に日に自信をなくしていくのは無理のないことだった。

けれども父親代わりのファザー・クリスマスは心配してはいなかった。
希望を源に魔法をつかう彼の辞書には、「不可能」なんて悪い言葉は載っていない。
「世の中には不可能なんてものはない。
不可能に思えることは、ただ単にまだやり方がわかっていないだけのこと」
彼は繰り返しアメリアに言い聞かせるが
アメリアはその言葉を信じることが出来なかった。


“クリスマスは世界を救う”シリーズの第3弾。
危機に瀕したクリスマスを希望が救い、
クリスマスのおとずれとともに世界に幸せが広がっていく…というのが
このシリーズのお約束ではあるはずなのだが、
幼い頃から苦労ばかりしてきた女の子が
ようやく安住の地を見つけたのかと思いきや
周りになじめず溶け込めず、孤独感を深めていく様は痛々しい。

それでも最後の最後になって
思わずよかったねえ!とほろっとさせられ
まんまと幸せのお裾分けをいただいた。

読みどころ、ツッコミどころはいろいろあるが
私のイチオシ!はなんといっても
真実しか口にすることができないだけでなく
いかなる場面でも問われれば、真実を口にせずにはいられない
“真実の妖精”が登場する場面だ。

シリーズのこれまでの作品の中では
どちらかというと皮肉屋で愛想なしの脇役だった彼女が
今回はもう、ヒロインに以上にいとおしくてたまらない。

常に真実しか口にすることが出来ない妖精は
同時に真実かどうかを見抜く力もあるので
なにか事件が起きたときには重要な証人になりうるのだが、
それだけに彼女の周りにはトラブルも多い。

真実がいつも心地よいものであるとは限らないし、
認めたくない真実もある。
心の中に秘めておきたい真実もあるが
問われれば答えずにはいられないのも妖精のさが。

“真実の妖精”にも素敵なクリスマスが訪れますようにと
願わずにはいられなかった。

               (2018年12月17日 本が好き!投稿