かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『回復する人間』

 

同じ著者と翻訳者による『ギリシャ語の時間』がとてもよかったから、
必ず読もうと思っていた本だ。

・明るくなる前に
・回復する人間
エウロパ
フンザ
・青い石
・左手
・火とかげ

という7つの作品が収録された短編集で、
大切な人の死、家族とのすれ違い、自らの病など、
心身ともに痛みを抱えて
途方に暮れる人々が次々と登場する。

あるときは胸に痛みを感じて
あるときは鼓動を確かめたくなって
またあるときはなにかから守るかのように
本を読みながら、
気がつくと私は胸を押さえていた。

そのことに気づくたびに、
深く息を吸い込んで深呼吸をした。

息を詰めていたわけでもないのに
なぜだかそうせずにはいられなかったのだ。

胸骨のあいだのくぼんだところ、臓器は何も入っていない、こんなふうに痛みだす前にはそんな場所が体にあることすら知らなかった場所(「青い石」)

ああきっとここだったんだ。
私が本を読みながら無意識に手を置いていた場所は。

数々の絶望が描かれているにもかかわらず読後感は悪くないのは、
絶望の淵に立たされながらも
見えるか見えないかという微かな光が差し込んでいることに気づかされる作品が
多いからという理由もあるだろうが
それだけでもなかった。

ハン・ガンは詩人だ。
文字を追っていくうちに
選び抜かれた言葉の端々や行間から
文字にして書かれていないあれこれがあふれ出てきて
圧倒的な迫力をもってせまってくる。
物語の中でおぼれそうになりながら
慌てて浮上してふうっと息をつくとき
大げさな言い方だと笑われるかもしれないが
読者である私は
自分が生きていることを実感してしまうのだった。

               (2019年07月03日 本が好き!投稿