かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『あなたの自伝、お書きします』

 

それは20世紀半ば、そう、より正確に言えば1949年のことだった。
フラーは早急に仕事に就く必要に迫られていた。
あちこちの書店にツケがたまっていたのだ。
友人の紹介で見つけた勤め口は“自伝協会”。
主牢者のサー・クウェンティンいわく“文学的性質”を持つ仕事だということだった。
提示された給与額は1936年の水準だったが、
それでもフラーはその仕事に興味を覚え、引き受けることにしたのだった。

会員の回想録執筆を手伝うという名目の元
大仰で退屈な文章を読みやすく手直しするだけでなく
多少なりとも読み応えのあるものにようと勝手な脚色を加えていくうちに
フラーの周囲では
彼女が執筆中の処女小説『ウォレンダー・チェイス』を
なぞるような出来事が次々と起こり始め、
あげくようやく書き上げた小説の原稿が
なにものかに盗まれてしまう事態に?!

失われた原稿を探し求めつつ、
複雑に絡み合う登場人物それぞれの思惑を解きほぐしていくミステリ仕立ての物語は
作中の出来事と作中作、物語と作家の自伝的要素もまた複雑に絡み合って、
虚構と現実の狭間で読者を翻弄する。

読みやすいが複雑で
娯楽的でありながらためになる
不気味な怖さと思わずにやついてしまう面白さを兼ね備えたなんとも奇妙な物語。
ストーリーを楽む合間に、作家が作品を生み出す苦悩も垣間見られて興味深かった。

           (2016年09月12日 本が好き!投稿