かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『私がもらった文学賞』

 

 

トーマス・ベルンハルト(Thomas Bernhard、1931年2月9日~1989年2月12日)は、現代オーストリアを代表する作家の1人だ。
だがその作品にはしばしば自国への辛辣な批評があらわれ、本国では手厳しく扱われることも多かったようだ。
とはいえ作品は国外で絶賛され、多くの読者にその才能を認められることとなった。

本書には、ベルンハルト自身が、1960年代から70年代初めにかけて次々と受けた9つの文学賞をテーマに書き上げたエッセーが収録されている。
ちなみにベルンハルトはこの9つ以外の賞も受賞していて、自ら受賞を辞退した賞もまたいくつもあるらしい。

なぜこの9つだけを取り上げたのかはわからないが、それらの受賞にまつわるあれこれを思い起こしながら、70年代末に執筆されたらしいこれらのエッセイは、10年ほどの時を経て、作家自らの手によって、その死の直前のに1冊の本にすべく整理されたのだという。

例えばノーベル文学賞の受賞スピーチなどには、それだけでも出版に値するような濃密な内容のものもあるが、本書にはそういった「受賞にあたってのことば」的なものを期待してはいけない。

授賞式のはじまる2時間前に、トレードマークになっているセーターとパンツの組み合わせではまずいような気がしてきて、慌ててスーツを買いにいった話とか、受賞スピーチの最中にその内容に激怒した主賓の大臣が椅子を蹴って席を立ってしまったために、式典が大混乱に陥ったエピソードなど、笑うべきか嘆くべきか怒るべきか迷いながらも、食い入るように読んでしまうあれこれが詰まっている。

あの賞、この賞に対して、その舞台裏をも紹介しながら辛辣な言葉を書き連ねながら、それでも各賞についてくる賞金を拒むことができない懐事情にも言及する。
いつも授賞式に駆けつけてくれる叔母さんとの温かなやりとりや、合間に合間に見え隠れする自伝的なあれこれも読み応えがあり、それらが作家の執筆した作品への興味をもたらしもする。

文壇の舞台裏をくさしながらも、独特のユーモアに貫かれた面白い1冊だった。