かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『サリー・ジョーンズの伝説』

 

物語は今から100年前、熱帯の嵐の夜にはじまる。曽野と、アフリカの熱帯雨林の奥深くでゴリラの女の子が生まれた。月はもちろん、星ひとつまたたかない真っ暗な夜のことだった。それゆえ村の長老は、生まれた子が数々の不幸にみまわれるだろうと、予言した。


こんな書き出しで始まるのは、スウェーデンの作家がゴリラの半生を描いた絵本だ。

お母さんの背中におぶさって移動していたほど幼いころに、密猟者によってとらえられ、競りにかけられたその子は、トルコの象牙商人に買われるのだが、関税の支払いをけちったその商人は、その子を乳母車にいれ、生まれたばかりの赤ん坊に見せかけてヨーロッパ行きの客船に乗せたのだった。
偽造パスポートにはジャングルで行方不明になったアイルランド人宣教師夫婦の娘、サリー・ジョーンズと記されていた。

それから彼女がたどる運命ときたら……。


一日中遊んでくれる動物愛好家の女性に引き取られて、幸せに暮らしていたかと思いきや…。
どんな場所に隠されたバナナでも見つけられるようになると、遊びはどんどん難しさを増し、やがて鍵のかかった引き出しの中や、警報器付きの金庫の中の……!?


世間を騒がせた“空飛ぶ泥棒”の嫌疑をかけられ、動物園に送られることになったサリー。
今度はホームシックのオランウータン・ババと心を通わせるようになるも、やがて二人は引き離されて……。

サーカスに入ったこともある。
密航をしたことも、船員として働いたこともあるし、バーの客寄せに店頭につながれたことも。

世界各地を渡り歩くサリーの人生には、本当につらいことがたくさんあって、希望を捨ててしまった時期もあったけれど、でも時々ほんのちょっぴり、誰かと心を通わせられることもあって、そういう良い思い出をサリーは心の隅にしっかり貯めておくことができて…。

フィクションの世界にすっかり取り込まれて、こんなに苦労したのだから、なんとしても幸せになってほしい…そう思いながら、ページをめくる。



よかったね。サリー。本当に。
読者もゆっくり手を振って、安心して本をとじることができる。