かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『ついでにジェントルメン』

 

以前読んだ『らんたん』がとても面白かったから、もう一作、著者の作品に挑戦してみようと手にした本。

いろいろな作品がある中で、この本を選んだ動機はなんといっても、作中に菊池寛が出てくると聞いたからだ。

といっても、収録されている7つの短篇のうち、菊池寛が登場するのは2篇のみ。
そのうちの1篇、巻頭作「Come Come Kan‼」の主人公の原嶋覚子は25歳。
3年前、短編小説で文藝春秋の文芸誌「オール読物」で新人賞を取った小説家だ。
賞はとったはいいがその後は芽が出ず、次作を書き直すこと11回。
打合せのたびに担当編集者に嫌みを言われ、落ち込んでいる。
今日もまた、文藝春秋社のラウンジでの打合せで打ちのめされて、あーあ。別の新人賞に応募して、一からデビューし直そうかなあ……とひとりつぶやく彼女に今から一からやり直す?そんなの意味ないよと、突然話しかけてきたのは、誰あろう、文藝春秋社の創設者菊池寛…の銅像だった!?

やーこれは文壇の裏事情(?)も含めて面白い!

この調子で連作短篇になるのかとおもいきや、2作目の「渚ホテルで会いましょう」は、かつて自身が書いたベストセラー小説の舞台となったホテルを、久々に訪れた初老の作家が主人公で…。

これはこれ、あちこちにちりばめられた皮肉がじわじわと効いてくる、興味深い作品だった。

「勇者タケルと魔法の国のプリンセス」は女性専用列車を目の敵にする男の話だし、「エルゴと不倫鮨」は、乳飲み子を抱いておしゃれな寿司バーに入ってくる女性がめちゅくちゃかっこいい。

夫の浮気が原因で幼子を抱えて実家に帰った主人公に、なぜかついてきてしまったのは舅だった!?「立っている者は舅でも使え」には思わず苦笑い。

名作少女小説のセオリーは現代社会にも通用するのか!?
「あしみじおじさん」を読めば、もう一度あの『あしながおじさん』を読み返したくなること必至!?

トリを務める「アパート一階はカフェー」には、生身の菊池寛が登場するが、彼はあくまで脇役で、主役はあくまで女性たち。

なんといっても文壇よりの作品が面白いので、そういう物ばかり集めた連作短篇でも良かったのでは?と思いはするが、ここはそれ、最初にもどって、菊池寛(の銅像)の忠告に耳を貸すべき?

よっぽど上手くないと埋もれちゃうよ。今、めちゃくちゃ多いじゃん。連作短篇
さすが菊池寛(の銅像)、だてにサロンでずっと聞き耳を立てているわけじゃない。
聞く耳を持つ作家にはいろいろ為になるアドバイスをしてくれるらしい!?