9歳のペドロはサッカー好きの少年。
両親から誕生日プレゼントにボールをもらったペドロは、ぶつくさもんくをいった。
プロのサッカー選手が蹴るような、白と黒の革のボールが欲しかったのに、もらったのは軽いビニールのボールだったからだ。
ある日ペドロは、友だちと一緒にボールを蹴って、みごとゴールを決めた。
彼は、なかまと背中をたたきあおうと、センターにかけだした。
ところが、だれもついてこなかった。
みんな、つったって、同じ方向を見ていたのだ。
相手チームのキーパーをしていたダニエルのパパが、二人の男につれていかれようとしていた。
銃を構えた軍人数人が、そのまわりをとりかこんでいる。
ジープがいってしまうと、母親達がとびだしてきて、子どもたちを家に押し込んだ。
「どうして、つれていかれちゃったの?」
とりのこされたペトロは立ち尽くすダニエルにたずねる。
「パパが、独裁に反対だからさ」
独裁に反対……聞き覚えのある言葉だった。
両親が夜、熱心に耳を傾けているラジオでよくいっていた。
独裁に反対ってどういうこと?
パパも反対なの?パパもつかまってしまうの?
ぼくも独裁に反対ってことになる?
次の日、学校にいくと、教室に軍服を着た男の人がやってきて、「諸君に作文をかいてもらいたい」という。
作文の題は「わが家の夜のすごしかた」だ。
家族みんなとどんな話をした?誰が来た?テレビを見てどんなことをいった?なんでもいい、自由に書きなさい。大尉はいった。
いちばん上手く書けた子には将軍がじきじきに国旗の色のリボンをかけた金メダルをくれるという。
ペトロはあれこれ考えた末、作文をかきはじめる。
もしメダルをもらったら、それを売ってサッカーボールを買おうと思いながら。
こうしてペドロが書いた作文は……。
しばらく前にTwitterで教えてもらったチリの絵本。
チリの…といっても、作家がこの物語を書いた1970年代、この本はチリでは発表することが出来ず、フランスのルモンド紙に掲載されたのだという。
絵本になったのはそれから20年以上を経た2000年。
ベネズエラでスペイン語版が出版された後、英語、ドイツ語、イタリア語……と続き、2003年にはユネスコ児童文学賞を受賞している。
30ページちょっとの絵本だ。
子ども向けの、といっていいだろう。
けれどもこの中にはずっしりと重いものが詰まっていて、思わず読み手の喉をも詰まらせる。
絵本のもつ力を改めて、認識させられる傑作だ。