かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『終わりと始まり』

 

詩を読むのは好きだ。
気に入った詩に出会うと
選び抜かれた言葉とリズムを
声に出して読みたくなる。
だから、詩集を読むときは
できるだけ一人になって、
静かな部屋で読むのがいい。


詩は書かれた言語で味わうのがいい
言葉遊びも言葉のリズムも
翻訳ではなかなか生かし切れない
そう思っていたから
この詩集のことは知っていたけれど
なかなか手が出せなかった。


なんといってもシンボルスカが操るのは
ポーランド語なんだから。


けれども、池澤夏樹氏がその著書で
シンボルスカの詩の一節をタイトルにしたと聞いたり
大好きなタブッキがその著作の中で
シンボルスカの詩を引用したりしているのを見るにつけ
やはり読んでみなくてはと思うようになったのだ。


意を決して手にした詩集は
心に染み渡る言葉の花束のようだった。

またやって来たからといって
春を恨んだりはしない
例年のように自分の義務を
果たしているからといって
春を責めたりはしない
         《眺めとの別れ》より



戦争が終わるたびに
誰かが後片付けをしなければならない
物事がひとりでに
片づいてくれるわけではないのだから
        《終わりと始まり》より



つかの間の一瞬でさえも豊かな過去を持っている
土曜日の前にはそれなりの金曜日があり
六月の前にはそれなりの五月がある
        《題はなくてもいい》より



18篇の詩のあとに、
ノーベル文学賞受賞時の記念講演の内容が収録されていて、
こちらもとてもすばらしい。


書かれた言語で味わえないのは
とても残念ではあるけれど
シンボルスカの紡ぐ詩の美しさと
その根底に流れる世界観は
十分に堪能できる一冊だった。

            (2012年09月12日 本が好き!投稿