かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『長い物語のためのいくつかの短いお話』

 

2017年98歳でこの世を去ったフランスの小説家、ロジェ・グルニエの生前最後の短編集。

その老人は、自らの人生を振り返って自分を罰することを決意し自殺をはかろうとしたのだが……(「ある受刑者」)

少年は自転車一つでレジスタン活動に身を投じようとしたのだが……(「マティニョン」)

夜カフェレストランで同じような曲を演奏していたチェロ奏者は、ある日偶然出会った一人の娼婦に心引かれて…(「チェロ奏者」)

このタイトルから書店員の話だと思う人はいないのでは……(「動物園としての世界」)

ジャーナリストの彼とその初恋の相手である彼女の物語(「長い物語のための短いお話」)

「夫に付き添って」や「記憶喪失」など、老いを主題とする作品も。

収録作品は全部で13篇。

作家自身や身近な人たちの人生の一コマに、変奏曲のように少しずつ変化を加えて、語りなおしていくこの手法が、作家の記憶と物語の語り手の記憶に、読者がかつて読んだ作家の他の作品の記憶、さらには物語とは直接関係がないはずの読者自身の記憶までをも呼び起こし、郷愁を誘う。

“価値観”という点では、古めかしく思えるところがないとはいえないが、それでも、90を越えてなお、これほどの作品を世に送り出し続けた作家のその筆力に圧倒された。