かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『書物の宮殿』

 

たとえば「待つことと永遠」というテーマで書かれたものをみてみよう。
ディーノ・ブッツァーティは、
スクープを狙って一生を空費してしまう年老いた同僚記者たちの姿を見て
『タタール人の砂漠』のアイデアを思いついたらしい
とか
あるいは
コンラッドには異常なまでに待つことがテーマになっている短編があるとか
はたまたキャサリン・マンスフィールドの小説に出てくる娘が
「待つのが大好きなのよ!」と口ごもりながらも震えるような激しい声でいうのは
こんなシーンだとか
フィッツジェラルドあのギャッピーが、
夜ウエスト・エッグの大邸宅の前でたったひとり、
入り江の反対側の緑の光を見つめている姿ほどロマネスクなものがあろうかなどと語る。

先月98歳で亡くなられたロジェ・グルニエ
膨大な知識と読書量に裏打ちされた文学論ではあるけれど、
とても楽しげに、そしてとても親しげに語りかけてくるようなエッセイなのだ。

「私生活」というテーマでは、
ある作家の作品を理解するためには、
その私生活を知ることが重要なのだろうか?
と問いかけ

スタンダールの友人だったからといって、
いかなる点で彼をよりよく理解できるというのか?
むしろ反対に、このことが正しい評価のさまたげになることだって、
大いにありえるではないか。
というプルーストの言葉をひく。

ディケンズの『デイヴィッド・コパフィールド』には
作者がそれまで決して口にしなかった過去や
わざわざ遠回りをしてでも決して足を向けることのなかった場所が
織り込まれているのだという。

あるいは作家とモデルについての興味深いあれこれを語る。

興味深いテーゼ、
気に入ったフレーズ、
気になる作家や気になる作品。
私は本に線は引かない主義だが、
もし引いたとしてもこの本には、引く意味がない。
最初から最後まで、どのセンテンスも気になってしょうがない。

当初、図書館で借りた本だったが
ずっと手元に置いておきたくなって思わず買ってしまった。

           (2017年12月11日 本が好き!投稿