かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『仙文閣の稀書目録』

 

追っ手は必ず来る。
それは、よくわかっていた。

一冊の本を大事に抱えて走る文杏がめざすのは仙文閣。
500年前に書仙が作ったといわれる書庫だ。
仙の力に守られ膨大な蔵書を有するその書庫は、本であればなんでも所蔵するという。
それが時の王朝に禁書とされた本であっても。

皇帝の治世を批判し、反乱を促した反逆の罪で処刑された柳老師。
文杏にとって、育ての親であり、師でもあった柳老師が書きあげた『幸民論』は、焚いて灰にするようにという命が下っていた。
もちろん、そのこの世にたった一冊しかない本を抱えて逃げている文杏自身の手配書も。

だがようやくたどり着いた仙文閣は、文杏が思い描いていたような場所とは言い難く、そのまま本を預ける決心がつきかねた。

そんな文杏の様子をみてとった仙文閣の長、王閣監は、文杏が本を納めても良いと思えるようになるまで、ここに滞在し、やはり信用できないとなったときには、本を持って出ていくようにと提案し、滞在中の監督者として、典書の麗考を指名するのだった。

とにもかくにも1冊の本を守ることに全てをかけようとする少女と、愛想も愛嬌も全く無いが本に向ける情熱と本に関する知識だけは確かという美しい青年典書を軸に展開する中華風ファンタジー

「人を知り世を論ず---本を書いた人物を知れば、その人の書いた本の内容を真に理解することができる。書いた者の意図するところを、正しく解釈することが重要だ。言葉は解釈によって、意味が随分変わる」

 

「本に書かれた言葉の意味をはかりかねたとき、書いた人物の輪郭がわかれば、理解ができる。あるいは書かれたことを、誤解せずにすむ。さらにそれが目録に、叙禄としてあきらかにされていれば、本を探す者は、書名や篇目で見落とすかもしれない自分に必要な本を、叙禄によって見落とさずにすむかもしれない。この人物の書いた本であれば、自分の求めるものが書かれているかもしれないと」


「本を守る」「本を残す」ということの意味を考えさせられる一冊でもある。